・・・ 三沢の話 何とかコーセン和尚あり、有名 或僧、出かけて「久しくコーセン和尚の高名をきく、麦コーセンか、米コーセンか」「味って見ろ」「喝!」「むせたか、むせたか」 雪のあくる日 三・・・ 宮本百合子 「一九二七年春より」
・・・ 故に、少くとも、高等学校以上大学に学ぶ位の若い男女の間は、公平、公明であると云う理想によって結ばれていると云っても誤ってはいますまい。 教室や学生の倶楽部や、宴会によって、種々な異性同士が紹介されます。喋ったり、遊戯をしたり、一緒・・・ 宮本百合子 「男女交際より家庭生活へ」
・・・今日来た郡山の新聞記者は、明にその傾向を語ると共に、そう云う一つの変動が起った場合に余波を受けて起る箇人的野心、或は、人間の本能的功名心を示して居る。 彼は、政治記者である。 彼の云うところによると、市に大字桑野として編入されること・・・ 宮本百合子 「日記・書簡」
・・・まして封建性のつよい日本のように、高名な祖父、或は父が家庭内で支配権をおのずから握っているばかりでなく、世間へ出てまで二言目には先ずあれは誰それの息子、娘として批判の基準をおかれることは、いかばかり苦痛であろう。弱気な若いものが中途半端に萎・・・ 宮本百合子 「花のたより」
・・・ 所謂文壇的功名心を創作の動機としていなかったという意味では、この二人の婦人作家は同じ足場にあるわけなのである。私は『牡丹のある家』の作者が、社会的重圧との積極的な揉み合いのうちに、或る時は作品を切りこまざかれつつ、いつしかプロレタリア・・・ 宮本百合子 「二つの場合」
・・・女のような声ではあったが、それに強い信念が籠っていたので、一座のものの胸を、暗黒な前途を照らす光明のように照らした。 「どりゃ。おっ母さんに言うて、女子たちに暇乞いをさしょうか」こう言って権兵衛が席を起った。 従四位下侍従兼肥後・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・僕は人間の前途に光明を見て進んで行く。祖先の霊があるかのように背後を顧みて、祖先崇拝をして、義務があるかのように、徳義の道を踏んで、前途に光明を見て進んで行く。そうして見れば、僕は事実上極蒙昧な、極従順な、山の中の百姓と、なんの択ぶ所もない・・・ 森鴎外 「かのように」
・・・死人の首でも取ッてごまかして功名しろ」と腰に弓を張る親父が水鼻を垂らして軍略を皆伝すれば、「あぶなかッたら人の後に隠れてなるたけ早く逃げるがいいよ」と兜の緒を緊めてくれる母親が涙を噛み交ぜて忠告する。ても耳の底に残るように懐かしい声、目の奥・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・そして生の渦巻の内から一道の光明を我々に投げ掛ける。 ストリンドベルヒに至っては、その深さと鋭さにおいて――簡素と充実とにおいて近代に比肩し得るものがない。また心理と自然と社会との観察者としても、ロシアの巨人の塁を摩する。彼もまた「人間・・・ 和辻哲郎 「生きること作ること」
出典:青空文庫