・・・ 而も、ブルジョア・地主は処女会や御用雑誌その他のあらゆる反動文化機関を総動員して、婦人大衆の文化を昔ながらの奴隷的な低さで止めておこうと狡い計略をめぐらしている。 何ぞというと「何だ! 女の癖に生意気な!」とやっつけ、封建的な屈従・・・ 宮本百合子 「国際無産婦人デーに際して」
・・・その絶間なく小さい狡いことをされる顧客の大部分がまた過去に於てせくせく蓄めた金をもって引込んで来た人間の、現在中流的偏見に満ちて社会的地位や財産を蓄積しつつある者なのは面白い。天から見たら苦笑される鼬ごっこだ。大体、郊外の住宅地というものは・・・ 宮本百合子 「是は現実的な感想」
・・・ 先生、うんざりする雨の後に、急に甦って輝く森林や湖水、其等の上に躍る日光は、何と云う美くしさでございましょう。水溜を跳び越えながら、一寸頭を擡げて空を仰ぐ若い女の影。馳け廻る犬の愉快なスニッフ。 陰影が出来、光輝を与えられて漸々立体的・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
・・・ 息もつまりそうにうっそうと茂ったエルムの梢を、そよりとも動かす微風もなくて、静かに横わった湖水から、彼岸の山にかけて、むっとした息のような霞が掛って居る。何時とはなく肌がしめるような部屋で机に倚りながら、東京ももうさぞ暑い事だろうなと・・・ 宮本百合子 「樹蔭雑記」
・・・殊にわたくしは、湖水や溪流のある山を好みます。ですから、わたくしは今まで「疲れた、海へでもゆこうかしら」なぞとは言ったことがない。いつも「山へ」と思います。 温泉もすきです。しかし、設備のいいところでなければいやです。尤も設備の整った温・・・ 宮本百合子 「身辺打明けの記」
・・・ みんな、ブルジョア・地主どもの仕かける狡い教育にだまされてそんな考えをもっていたのです。 労働者と農民がはっきりと、男も女も同じだけ働けばこの社会に暮らす権利は同じで、賃銀も当然同じでなければならないということを知って御覧なさい!・・・ 宮本百合子 「ソヴェト同盟の婦人と選挙」
・・・ 痛快なのは、ソヴェト同盟の生産拡張五ヵ年計画がはじまるまで、狡いことして儲けていた小成金や商人が、三十ルーブリの室なら九十ルーブリという風に、いつもキット三倍の税をかけられていたことだ。家賃が三倍になるばかりじゃない。電燈料もガス代も・・・ 宮本百合子 「ソヴェト労働者の解放された生活」
・・・こういうような性質を持つ菊池文学が愛されたのは当然のこと、従って菊池の常識性の反面は戦争になればそれに適応した戦争を鼓吹し、戦争宣伝もどしどしやって疑問を持たなかった。戦争が一般人民にどんな犠牲を与え、しかも戦争物で自分がもうけてますます競・・・ 宮本百合子 「“慰みの文学”」
・・・すべての文学は戦争鼓吹の文学でなければならなかったが、戦争そのものが非人間的な本質だったから従軍作家の誰の書くものもそれぞれの作家の文学的力量を生かしきらず、その人びとの人間の味さえも殺した。私小説にゆきづまり、日本文学の社会性のせまさ、弱・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・その出し前について、いつも狡い計略をするのは祖父である。アクリーナ祖母さんは、再びレース編をやり出した。そして、ゴーリキイも「銭を稼ぎはじめた。」 休日毎に朝早くゴーリキイは袋をもって家々の中庭や通りを歩き、牛骨、襤褸、古釘などを拾いあ・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
出典:青空文庫