・・・その作家自身ともおぼしき主人公が、ふんべつ顔して風呂敷持って、湖畔の別荘から、まちへ夕食のおかずを買いに出かけるところが書かれていたのであるが、いかにもその主人公のさまが、いそいそしていて、私には情なく、笑ってしまった。いい年をして、立派な・・・ 太宰治 「懶惰の歌留多」
・・・ 湖畔のフラミンゴーの大群もおもしろい見物である。一面におり立った群れの中に一か所だけ円形な空地があるのはどういうわけかと思って考えてみた。おそらくそこだけ湖底に凹所があって鳥の足には深すぎるので、それでそこだけが明いているのだろうと想・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ 「湖畔の朝」でもその他でもなんだか騒がしくて落ち着きがなくて愉快でない。ロート張りの裸体の群れでも気のきいたところも鋭さもなくただ雑然として物足りない。もう少し落ち着いてほしい。 正宗得三郎。 この人の絵も私にはいつもなんとなく騒がし・・・ 寺田寅彦 「昭和二年の二科会と美術院」
・・・ それからこの夏八月始めて諏訪湖畔を汽車で通りました、知人に諏訪の人が数人あるので特に興味があって汽車の窓から風景や民家の様式などに注意して見て来ました、あの辺の家屋の屋根の形や色の配合などの与える一種特別な感じがありますがその感じの中・・・ 寺田寅彦 「書簡(1[#「1」はローマ数字1、1-13-21])」
・・・それからたしかルツェルンかチューリヒ湖畔の風景もあった。スイスの湖水と氷河の幻はそれから約二十年の間自分につきまとっていた。そうしてとうとう身親しくその地をおとずれる日が来たのであったが、その時からまたさらに二十年を隔てた今の自分には、この・・・ 寺田寅彦 「青衣童女像」
・・・ 諏訪湖畔でも山麓に並んだ昔からの村落らしい部分は全く無難のように見えるのに、水辺に近い近代的造営物にはずいぶんひどく損じているのがあった。 可笑しいことには、古来の屋根の一型式に従ってこけら葺の上に石ころを並べたのは案外平気でいる・・・ 寺田寅彦 「颱風雑俎」
・・・サンゴタールのトンネルを通ってから食堂車にはいるとまもなくフィヤワルドステッター湖に近づく。湖畔の低い丘陵の丸くなめらかな半腹の草原には草花が咲き乱れ、ところどころに李やりんごらしい白や薄紅の花が、ちょうど粉でも振りかけたように見える。新緑・・・ 寺田寅彦 「旅日記から(明治四十二年)」
・・・ 安井氏の「風吹く湖畔」を見ると日本の夏に特有な妙に仇白く空虚なしかし強烈な白光を想い出させられるが、しかしそういう点ではむしろ先年の「海岸風景」の方から一層強い印象を受けたような気がした。ともかくもこの日本の白い夏の光は絶望の悲哀とい・・・ 寺田寅彦 「二科展院展急行瞥見記」
・・・それで今度は未見の箱根町まで行って湖畔で昼飯でも食って来ようということになった。自分達の外出にはとかく食うことが重要な目的の一つになっているようである。 東京駅発の電車は思いの外あまり込まなかった。横浜で下りた子供連れの客はたいてい博覧・・・ 寺田寅彦 「箱根熱海バス紀行」
・・・恐らくはそのツェラ高原の過冷却湖畔も天の銀河の一部と思われました。 けれどもこの時は早くも高原の夜は明けるらしかったのです。 それは空気の中に何かしらそらぞらしい硝子の分子のようなものが浮んできたのでもわかりましたが第一東の九つの小・・・ 宮沢賢治 「インドラの網」
出典:青空文庫