・・・私が第四階級の人々に対してなんらかの暗示を与ええたと考えたら、それは私の謬見であるし、第四階級の人が私の言葉からなんらかの影響を被ったと想感したら、それは第四階級の人の誤算である。第四階級者以外の生活と思想とによって育ち上がった私たちは、要・・・ 有島武郎 「宣言一つ」
・・・ ところが、最近、ふとしたことから、この空想の致命的な誤算が曝露してしまった。 元来、猫は兎のように耳で吊り下げられても、そう痛がらない。引っ張るということに対しては、猫の耳は奇妙な構造を持っている。というのは、一度引っ張られて破れたよ・・・ 梶井基次郎 「愛撫」
・・・君は、君の身のほどについて、話にならんほどの誤算をしている。ただ、君は年齢も若いのだし、まだ解らぬことが沢山あるのだし、僕にもそういう時代があったのだから黙っていただけの話だ。君のこのたびの手紙の文章については、いろいろ解釈してみたが、『こ・・・ 太宰治 「虚構の春」
・・・ そもそも茶道は、遠く鎌倉幕府のはじめに当り五山の僧支那より伝来せしめたりとは定説に近く、また足利氏の初世、京都に於いて佐々木道誉等、大小の侯伯を集めて茶の会を開きし事は伝記にも見えたる所なれども、これらは奇物名品をつらね、珍味佳肴を供・・・ 太宰治 「不審庵」
・・・またある時は若い婦人に扮装して午餐会に現われ、父の隣席に坐って一座を驚かせた。 いよいよ Cambridge に入った。貴族の子弟であるので、Fellow Commoner として入学した。しかし極めて質素な生活をしていた。ここで有名な・・・ 寺田寅彦 「レーリー卿(Lord Rayleigh)」
・・・大阪の鳥居君が出て来て、長谷川君と余を呼んで午餐を共にした。所は神田川である。旅館に落ち合って、あすこにしよう、ここにしようと評議をしている時に、君はしきりに食い物の話を持ち出した。中華亭とはどう書いたかねと余に聞いた事を覚えている。神田川・・・ 夏目漱石 「長谷川君と余」
・・・「ギャラップがダイジェストと同様に労働階級の投票率を誤算したのではなかったろうか。即ちAFL、CIOの二大労働組合がタフト・ハートレー法撤廃のため一生懸命になって千五百万の組合員に運動し投票所へのかりだしに努めたことに対し、それに適当するだ・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・一九二八――二九年の例をとって見るとソヴキノでは、芸術映画 五三同 喜劇 八児童用 九文化啓蒙 九〇という数にのぼっている。どんな芝居、どんな映画にしろ、それがソヴェト権力確立後につくられた・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・また、日常生活のこまごましたこと、たとえばこの書簡集にはもちろんロシア小説の到るところに現れて、分るようで分らなかった午餐を、自身食べたり食べなかったりして暮していると、散髪につき、風呂につき、チェホフがしばしば妻に訴えているロシア式不便を・・・ 宮本百合子 「シナーニ書店のベンチ」
・・・日曜の教会礼拝時間後から午餐までハイド・パアクのこの騎馬道とそれに沿う散歩道は上流の社交場である。怪我をするなら上流の人だけがする唯一のところなのだ。騎馬巡査が二人その辺を行ったり来たりしている。―― 一時近くなると騎馬道の上にも人影が・・・ 宮本百合子 「ロンドン一九二九年」
出典:青空文庫