・・・世界がただごちゃごちゃになったとばかり見てはいまい。さらによりよい人間の生活の可能を発見しようとしてのもがきであり、試みであり、輾転反側であることは疑いないことを確信していると思う。しかし、よりよい可能の発見のために試みられる努力にも、実に・・・ 宮本百合子 「働く婦人の新しい年」
・・・ あれはどの坂かい?」「ああ、あれは、この坂よ」「これっぽっちの狭い坂だった、あれかい? ごちゃごちゃ店なんか並んだ……」「そうなのよ。すっかり変っちゃったでしょう。あの頃はまだずっと急だったしね」「そうか!」 さも合点・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・天気の好い冬の日など霞んだように遠方まで左右から枝をさし交している並木の下に、赤い小旗などごちゃごちゃ賑やかな店つき、さてはその表の硝子戸に貸家札を貼られた洋館などを見渡すと、どうやら都離れて気が軽やかになり、本当の別荘地へでも来たような気・・・ 宮本百合子 「牡丹」
・・・婦人席の傍に立っている守衛は、上のひとが独断でそうしたが仕方がないとごちゃごちゃいっているところへ、先刻の三人づれが戻って来た。わり込んで腰をおろした女の人たちの二人は、守衛さんが云々とそれを楯に動こうとせず、先着の一人が化粧の顔に怒気を浮・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・別にすると、なぜ別にする、なぜごちゃごちゃにして置かないかと云う疑問が起る。どうしても歴史は、画のように一刹那を捉えて遣っているわけにはいかないのだ。」「それでは僕のかく画には怪物が隠れているから好い。君の書く歴史には怪物が現れて来るか・・・ 森鴎外 「かのように」
出典:青空文庫