・・・を散(きらした様にキラキラした中にゴロンとだらしなくころがって居る。 梁にある鶏の巣へ丸木の枝を「なわ」でまとめた楷子が壁際に吊ってあってその細かく出た枝々には抜羽だの糞だのが白く、黄いろくかたまりついて、どっか暗い上の方でククククと牝・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ 或る人の一日 何とはなし、どうしてもぬけないけだるさに植物園にスケッチに行くはずのをフイにして、食事がすむとすぐ相変らずのちらかった二階に上って、天井向いてゴロンとひっくる返った。ぞんざいな造りの天井をしさいに見て・・・ 宮本百合子 「芽生」
・・・ 次の日、午後一時ごろ、マリウスボーメルという百姓がイモヴィルのウールフレークにその手帳とその内にあった物とを返しに来た。この百姓はブルトンの作男でイモーヴィルの市場の番人である。 この男の語るところによれば、かれはそれを途上で拾っ・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・「拾得さんはいつごろから当寺におられますか」「もうよほど久しいことでございます。あれは豊干さんが松林の中から拾って帰られた捨て子でございます」「はあ。そして当寺では何をしておられますか」「拾われて参ってから三年ほど立ちましたとき・・・ 森鴎外 「寒山拾得」
上 この武蔵野は時代物語ゆえ、まだ例はないが、その中の人物の言葉をば一種の体で書いた。この風の言葉は慶長ごろの俗語に足利ごろの俗語とを交ぜたものゆえ大概その時代には相応しているだろう。 ああ・・・ 山田美妙 「武蔵野」
・・・「しかし、そんな青年が今ごろ僕の色紙を欲しがるなんて、おかしいね。そんなものじゃないだろう。」 と梶は云った。そして、そう思いもした。「けれども、何といっても、まだ小供ですよ。あなたの色紙を貰ってくれというのは、何んでも数学をや・・・ 横光利一 「微笑」
・・・周文は応永ごろの人であるが、彼の墨絵はこの時代の絵画の様式を決定したと言ってもよいであろう。そうしてこの墨絵もまた、日本文化の一つの代表的な産物として、世界に提供し得られるものである。もっとも、絵画の点では、雪舟が応仁のころにもうシナから帰・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
出典:青空文庫