・・・富裕階級が労働階級の解放に参加しないのは個人的利害によって、この国家的な道徳的協同に反対するものであると説いた。われわれには共鳴するところ最も多い論拠である。マルクスの如く歴史の発展を物力の必然として人間の道徳的努力の参与を拒むことは、たと・・・ 倉田百三 「学生と教養」
ここでは、遠くから戦争を見た場合、或は戦争を上から見下した場合は別とする。 銃をとって、戦闘に参加した一兵卒の立場から戦争のことを書いてみたい。 初めて敵と向いあって、射撃を開始した時には、胸が非常にワク/\する。・・・ 黒島伝治 「戦争について」
・・・所どころ、実戦に参加した者でなければ書けないなま/\しい戦場の描写がある。後の銃後と相俟って、旅順攻囲の終始が記録的に、しかも、自分一個の経験だけでなく、軍事的知識と見聞をかき集めて、戦線を全貌的に描き出そうと努めてある。しかも、多くを書い・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
・・・『弓張月』で申しますれば曚雲だの利勇だの、『八犬伝』で申しますれば蟇田素藤だの山下定包だの馬加大記だのであります。第三には「端役の人物」で、大善でもない、大悪でもない、いわゆる平凡の人物でありますが、これらの三種の人物中、第一類の善良なる人・・・ 幸田露伴 「馬琴の小説とその当時の実社会」
・・・維新の革命に参加してもっとも力のあった人びとは、当時みな二十代から三十代であった。フランス革命の立者であるロベスピエールもダントンもエベールも、斬首台にのぼったときは、いずれも三十五、六であったと記憶する。 そして、この働きざかりのとき・・・ 幸徳秋水 「死刑の前」
・・・に名を成さざる時代の作に多いのである、革命運動の如き、最も熱烈なる信念と意気と大胆と精力とを要するの事業は、殊に少壮の士に待たねばならぬ、古来の革命は常に青年の手に依って成されたのである、維新の革命に参加して最も力ありし人々は、当時皆な二十・・・ 幸徳秋水 「死生」
・・・いかにも山家らしくて。」 こんな話も旅らしかった。 甲府まで乗り、富士見まで乗って行くうちに、私たちは山の上に残っている激しい冬を感じて来た。下諏訪の宿へ行って日が暮れた時は、私は連れのために真綿を取り寄せて着せ、またあくる日の旅を・・・ 島崎藤村 「嵐」
・・・三吉が小山の家の方から通っている同じ学校の先生で、夏休みを機会に鼻の療治を受けに来ている人があると、三吉は直ぐそれを知らせにおげんのところへ飛んで来るし、あわれげな唖の小娘を連れて遠い山家の方から医院に着いた夫婦があると、それも知らせに飛ん・・・ 島崎藤村 「ある女の生涯」
・・・ 山家の娘らしく成って行く鞠子は、とは言え親達を泣かせるばかりでも無かった。夕飯後に、鞠子は人形を抱いて来て親達に見せた。そして、「お一つ、笑って御覧」などと言って、その人形をアヤして見せた。「かァさん、かさん――やくらか、やくや―・・・ 島崎藤村 「岩石の間」
・・・呼んでいるのでありますが、それは何も、この男ひとりを限って、下等と呼んでいるのでは無くして、芸術家全般がもとより下等のものであるから、この男も何やら著述をしているらしいその罰で、下等の仲間に無理矢理、参加させられてしまったというわけなのであ・・・ 太宰治 「女の決闘」
出典:青空文庫