・・・此方にも鍵なりの地面があり、棕櫚や梧桐、楓らしいものなどが植って居る。 彼方此方歩いて居るうちに、先ず樹木のあるのが私を悦ばせ始めた。屋根は仮令トタン葺きでも、家全体が古物でも、眺め、自然を感じる植物の多いのはよい。内部は、翌日の午後で・・・ 宮本百合子 「又、家」
・・・その直ぐ向うは木槿の生垣で、垣の内側には疎らに高い棕櫚が立っていた。 花房が大学にいる頃も、官立病院に勤めるようになってからも、休日に帰って来ると、先ずこの三畳で煎茶を飲ませられる。当時八犬伝に読み耽っていた花房は、これをお父うさんの「・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・中は広い廊下のような板敷で、ここには外にあるのと同じような、棕櫚の靴ぬぐいのそばに雑巾がひろげておいてある。渡辺は、おれのようなきたない靴をはいて来る人がほかにもあるとみえると思いながら、また靴を掃除した。 あたりはひっそりとして人気が・・・ 森鴎外 「普請中」
・・・そこの街道は何マイルも続いて両側に四重の棕櫚の並み木を持っていた。そこの小家はいずれも惚れ惚れするような編み細工や彫刻で構成せられた芸術品であった。男は象眼のある刃や蛇皮を巻いたの鉄の武器、銅の武器を持たぬはなかった。びろうどや絹のような布・・・ 和辻哲郎 「アフリカの文化」
出典:青空文庫