・・・無線電話で召集でもされたかと思うように一時にあちらからもこちらからも飛んで来るのである。これもおそらく蛾が一種の光度計を所有しているためであろうが、それにしても何町何番地のどの家のどの部分に烏瓜の花が咲いているということを、前からちゃんと承・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・無線電話で召集でもされたかと思うように一時にあちらからもこちらからも飛んで来るのである。これもおそらく蛾が一種の光度計を所有しているためであろうが、それにしても何町何番地のどの家のどの部分にからすうりの花が咲いているということを、前からちゃ・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・当時父は日清戦役のために予備役で召集され、K留守師団に職を奉じながら麹町区平河町のM旅館に泊まっていたのである。 Iの家の二階や階下の便所の窓からは、幅三尺の路地を隔てた竹葉の料理場でうなぎを焼く団扇の羽ばたきが見え、音が聞こえ、におい・・・ 寺田寅彦 「銀座アルプス」
・・・このダンサーは後に昔の情夫に殺されるための役割でこの喜劇に招集されたもので、それが殺されるのはその殺人罪の犯人の嫌疑をこの靴磨きの年とった方、すなわち浅岡了介に背負わせるという目的のために殺されなければならないことになっている。しかも、その・・・ 寺田寅彦 「初冬の日記から」
・・・父が日清戦争に予備役で召集されて名古屋にいたのを、冬の休みに尋ねて行ってしばらく同じ宿屋に泊っていたときのことである。戦争中で夜までも忙がしいので父の帰りは遅いことがしばしばあった。自分だけ早くから寝てもなかなか寝付かれないので、もう帰るか・・・ 寺田寅彦 「追憶の冬夜」
・・・大切りにナポレオンがその将士を招集して勲章を授ける式場の光景はさすがにレビューの名に恥じない美しいものであった。 ムーラン・ルージュはこれと同じようでも、どこかもう少し露骨で刺戟の強いものであった。完全に裸体で豊満な肉体をもった黒髪の女・・・ 寺田寅彦 「マーカス・ショーとレビュー式教育」
・・・「があ、非常召集、があ、非常召集」 大尉の部下はたちまち枝をけたてて飛びあがり大尉のまわりをかけめぐります。「突貫。」烏の大尉は先登になってまっしぐらに北へ進みました。 もう東の空はあたらしく研いだ鋼のような白光です。 ・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・兵営と前線生活では婦人のすることがすべて不幸な召集された男の手によってされていた。銃後では、家庭を破壊されたすべての哀れな女性が、軍の労働者に代って武器製造をした。これがどんな人間らしくない、不幸の図絵であったかということは今日すべての男女・・・ 宮本百合子 「明日をつくる力」
・・・つまり、人権剥奪の最もはげしい形である戦争への召集のために、個々の存在抹殺としての身分平等化が行われたわけであった。朝鮮の人々の日本名への改姓が強制されたと同じに――。しかし、日本の大学でも兵営でも、部落の人々の遭遇する運命は多難であった。・・・ 宮本百合子 「新しいアカデミアを」
・・・精神と肉体とが一致し、感情は理性とともにある行為の美しさへの招集と、善は美であり得るという事実についてのいくとおりかの例証がある。 一九四九年八月一日 追記 この集の編輯が終り、再校が出てしまってから、ふとわたし・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第十五巻)」
出典:青空文庫