・・・を完成し、国際ペンクラブ東京招致に成功したりしているのは、その実際の生き方において透谷とは対蹠的な方法を選んだ計画性のためであることも、また、私どもにつたえられている日本文学の財産の性質を吟味する上に意味ふかいことである。 今日のヒュー・・・ 宮本百合子 「十月の文芸時評」
・・・ 四年後のオリンピック東京招致に亢奮した感情や、今回のベルリン・オリンピックに出場した日本選手に対する感情、又一般にひきくるめて日本の役人たちがオリンピックに対して一般民衆の感情を向けようとして煽り立てたその方向や現実の結果について・・・ 宮本百合子 「日本の秋色」
・・・あすこには、ほんとうに腹から笑う素朴なおかしさと、生地むいだしの人間らしさとがあってシェクスピアという戯曲家の着目と力量とが、全くひととおりのものでないことをうなずかせた。 この職人衆のリアリスティックな場面に対して、二組の恋人たちが、・・・ 宮本百合子 「真夏の夜の夢」
・・・人々から断片的にあつめたインフォーメエションの上に立ち、而も作家としての立場からそれらの情報、説明を現実に照らし合わせて正当に判断するだけの力はない作者の無知が、言葉の綾では収拾つかぬ程度にまで作品の生地に露出している。それだけであるならば・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・だがオリムピックのニュース及びオリムピック東京招致前後の空気その他、微妙な或る刺戟が大衆の自然な関心に加えられていたことは争われない。生活の楽しさ、世界のひろさ、又その近さ、交誼の平安。それらの感情とは或は全然反対の不安、期待、好奇心を刺戟・・・ 宮本百合子 「「ラジオ黄金時代」の底潮」
・・・ 役所の令丁がその太鼓を打ってしまったと思うと、キョトキョト声で、のべつに読みあげた――『ゴーデルヴィルの住人、その他今日の市場に出たる皆の衆、どなたも承知あれ、今朝九時と十時の間にブーズヴィルの街道にて手帳を落とせし者あり、そのう・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・しかしそれがしは不肖にして父同様の御奉公がなりがたいのを、上にもご承知と見えて、知行を割いて弟どもにおつかわしなされた。それがしは故殿様にも御当主にも亡き父にも一族の者どもにも傍輩にも面目がない。かように存じているうち、今日御位牌に御焼香い・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・御覧にいれた方がわたくしには都合がよろしかったのですもの。御承知の通り、わたくしの狂言はすっかり当りましたでしょう。あなたあの写真と競争をお始めなすってから、男前が五割方上がりましたよ。あの写真があなたをせびるようにして、あなたから出来るだ・・・ 著:モルナールフェレンツ 訳:森鴎外 「最終の午後」
・・・「今日という今日は、承知せんぞ!」「何にッ!」 二人は羽がい締めにされた闘鶏のように、また人々の腕の中で怒り立った。「放してくれ、此奴逝わさにゃ、腹の虫が納るかい。」「泣きやがるな!」「何にッ!」 秋三は人々を振・・・ 横光利一 「南北」
・・・私を愛してくれる者はもちろんそれを承知してその集中を妨げないように、もしくはそれを強めるように、力を添えてくれます。しかし自分を犠牲にしてまでそれに尽くしてくれる者はただ一人きりです。他の者たちは、私からされるように望んでいる事を私が果たさ・・・ 和辻哲郎 「ある思想家の手紙」
出典:青空文庫