・・・ 俺れらを特種にするよりゃ、さきに、内地の事情を知らすがいゝ。」 彼等は、記者が一枚の写真をとって部屋を出て行くと、口々にほざいた。「俺ら、キキンで親爺やおふくろがくたばってやしねえか、それが気にかゝってならねえや!」三 前・・・ 黒島伝治 「前哨」
・・・そして馬の顔の毛や、革具や、目かくしに白砂糖を振りまいたようにまぶれついた。 二 親爺のペーターは、御用商人の話に容易に応じようとはしなかった。 御用商人は頬から顎にかけて、一面に髯を持っていた。そして、自分・・・ 黒島伝治 「橇」
・・・一つは青梅線の鉄道によりて所沢に至り、それより飯能を過ぎ、白子より坂石に至るの路なり。これを我野通りと称えて、高麗より秩父に入るの路とす。次には川越より小川にかかり、安戸に至るの路なり。これを川越通りと称え、比企より秩父に入るの路とす。中仙・・・ 幸田露伴 「知々夫紀行」
・・・遠い遠い所に木のしげった島が見えます。白砂の上を人々が手を取り合って行きかいしております。祭壇から火の立ち登る柱廊下の上にそびえた黄金の円屋根に夕ぐれの光が反映って、島の空高く薔薇色と藍緑色とのにじがかかっていました。「あれはなんですか・・・ 著:ストリンドベリアウグスト 訳:有島武郎 「真夏の夢」
・・・私がもし昔のお白州で拷問かけられても、切られたり、ぶたれたり、また、くすぐられたり、そんなことでは白状しない。そのうち、きっと気を失って、二、三度つづけられたら、私は死んでしまうだろう。白状なんて、するものか、私は志士のいどころを一命かけて・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・ 健康とそれから金銭の条件さえ許せば、私も銀座のまんなかにアパアト住いをして、毎日、毎日、とりかえしのつかないことを言い、とりかえしのつかないことを行うべきでもあろうと、いま、白砂青松の地にいて、籐椅子にねそべっているわが身を抓っている・・・ 太宰治 「もの思う葦」
・・・ 独立な屋根をもった舞台の三方を廻廊のような聴衆観客席が取り囲んで、それと舞台との間に溝渠のような白洲が、これもやはり客席になっている。廻廊の席と白洲との間に昔はかなり明白な階級の区別がたったものであろうと思われた。自分の案内されたのは・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・右には未だ青き稲田を距てて白砂青松の中に白堊の高楼蜑の塩屋に交じり、その上に一抹の海青く汽船の往復する見ゆ。左に従い来る山々山骨黄色く現われてまばらなる小松ちびけたり。中に兜の鉢を伏せたらんがごとき山見え隠れするを向いの商人体の男に問う。何・・・ 寺田寅彦 「東上記」
・・・「うん、毎朝梅干に白砂糖を懸けて来て是非一つ食えッて云うんだがね。これを食わないと婆さんすこぶる御機嫌が悪いのさ」「食えばどうかするのかい」「何でも厄病除のまじないだそうだ。そうして婆さんの理由が面白い。日本中どこの宿屋へ泊って・・・ 夏目漱石 「琴のそら音」
・・・不完全なのは、我々の心掛が至らぬからの横着に起因するのだからして、もう少し修養して黒砂糖を白砂糖に精製するような具合に向上しなければならんという考で一生懸命に努力したのである。すなわち昔の人には批判的精神が乏しかった。昔から云い伝えている孝・・・ 夏目漱石 「文芸と道徳」
出典:青空文庫