・・・の作者は、義太夫の文学の中に信夫のひどい東北弁をとり入れ、それが交通不便で、その東北弁の真偽を見わける機会もない当時にあっては珍しく、そこが所謂新趣向として都会の閑人たちの耳をたのしませたのであった。 今日娘の身売りは、道徳的な方面から・・・ 宮本百合子 「村からの娘」
・・・指導方針によって放送審議会がこの大綱を定め、中継番組は放送編成会が働き、ローカル番組は各地の放送局長が具体化するという仕組みになっているのである。 こういう手順で我々の聴くラジオは目下一日平均一四時〇九分間放送されているのである。プログ・・・ 宮本百合子 「「ラジオ黄金時代」の底潮」
・・・この民法改正要綱は昭和二年政府が臨時法制審議会を設けて、我々に日常関係ある民法のうち、親族、相続法の改正案を審議した。 私たちは、日ごろ結婚というものを主として対手の有無によって話しているが、日本の親族法は、男満三十年、女満二十五年に達・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・国際信義を裏切った不意打から、太平洋戦争が始まって以来、先ず日本国中ではこれまで漠然と考えられていた「日本の婦人」というものが急にはっきりと「戦う日本の婦人」という角度から見られ、語られ、型に嵌められようになった。例えば婦人雑誌などで、これ・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・信玄の遺言といわれるものは、勝頼に対して、おれの死後謙信と和睦せよ、和睦ができたらば、謙信に対して頼むと一言言え、謙信はそう言ってよい人物であると教えている。真偽はとにかく、信玄はそういう人物と考えられていたのである。 慶長の末ごろ・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・伝説では、殉死の習慣を廃するために埴輪人形を立て始めたということになっているが、その真偽はわからないにしても、とにかく殉死と同じように、葬られる死者を慰めようとする意図に基づいたものであることは、間違いのないところであろう。そういう埴輪の形・・・ 和辻哲郎 「人物埴輪の眼」
・・・ しからば何によって創作の真偽、貴賤、正直、不正直を分かつか。生きる事が自己を表現することであり、その表現が創作であるならば、いかなる創作も虚偽であり卑賤であるとは言えないはずではないか。 それはただ表現を迫る生命とその表現方法との・・・ 和辻哲郎 「創作の心理について」
・・・かの芸術が真義愛荘の高き理想を対象として「人生」を表現するはこれがためである。吾人はこの真義愛荘を通じて「全き者」を見たい。「全能」なるある者に接したい。荘厳なる華厳の滝万仞の絶壁に立つ時、堂々たる大蓮華が空を突いて聳だつ絶頂に白雲の皚々た・・・ 和辻哲郎 「霊的本能主義」
出典:青空文庫