・・・セルマ・ラゲルレフは彼女の作品を自国皇室に愛読されている作家である。ルードウィヒ・レンの感動すべき活動もこの会議で報告され、ジイドの「ソヴェト旅行記」の批判ものっている。 スペインが流血の苦難を通じて世界文化・文学の領域の中に新しい自身・・・ 宮本百合子 「文芸時評」
・・・ 自国の文化を十分に理解していないものがどうして他国の文化を理解することが出来よう。梶は、そのことの生き証人の如き観がある。梶は、国際列車にもまだ沢山の乗換場所がいる、というような言葉を機械的に暗誦し易いフレーズにまとめて云っているので・・・ 宮本百合子 「「迷いの末は」」
・・・ 我々、日本の労働者・農民は、アジアにおける最も野蛮な支配体制、自国ブルジョア・地主的天皇制〔一九三二年十二月〕 宮本百合子 「労働者農民の国家とブルジョア地主の国家」
・・・からはじまる王家三代の物語の最後は、アメリカで教育を受けつつ民族的矜持を失うことのなかった中国の青年劉が、中国にかえって自国の現実に幻滅を感じつつ、ついにその中から立ち上って、中国の民衆のうちに潜んでいる力への信頼をもって生きはじめるところ・・・ 宮本百合子 「若い婦人のための書棚」
・・・台所にいた千場作兵衛、そのほか重手を負ったものは家来や傍輩が肩にかけて続いた。時刻はちょうど未の刻であった。 光尚はたびたび家中のおもだったものの家へ遊びに往くことがあったが、阿部一族を討ちにやった二十一日の日には、松野左京の屋敷へ・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・彼は食事の時刻が来ると、黙って匙にスープを掬い、黙って妻の口の中へ流し込んだ。丁度、妻の腹の中に潜んでいる死に食物を与えるように。 あるとき、彼は低い声でそっと妻に訊ねてみた。「お前は、死ぬのが、ちょっとも怖くはないのかね。」「・・・ 横光利一 「花園の思想」
・・・そういわれてみると、蓮の花が日光のささない時刻に、すなわち暗くて人に見えずまた人の見ない時刻に、開くのであるということ、そのために常人の判断に迷うような伝説が生じたのであるということが、やっとわかって来た。もちろん、日光のほかに気温も関係し・・・ 和辻哲郎 「巨椋池の蓮」
・・・欧州文化の咀嚼においても、また自国文化の自覚においても。浜田耕作氏によると、大阪城大手門入り口の大石の一は横三十五尺七寸高さ十七尺五寸に達し、その他これに伯仲するものが少なくない。かりにこの石の厚さを八尺とし、一立方尺の石の重さ・・・ 和辻哲郎 「城」
出典:青空文庫