・・・私は、謙譲な 一人の侍女それ等の果物を一つ一つみのるがまま、色づくがまま捧げて 神に供える。朝 園を見まわり身体を浄め心 裸身で大理石の 祭壇に ぬかずく。或時は 常春藤の籠にもり或時は 石蝋・・・ 宮本百合子 「五月の空」
・・・ ロオル・ベルニィ夫人の父というのは、ルイ十六世の宮廷に出入してマリイ・アントワネットの音楽教師を勤めたヒンネルというドイツ人であり、母は、ルイズと云い、マリイ・アントワネットの侍女の一人であった。父の死後母は熱心な王党員である司令副官・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ 上の娘は、三輪の郵便局の細君になって居る。二女が二十一二で、浜田病院に産婆の稽古をして居る。うちにもちょくちょく遊びに来る、色白な、下膨れの一寸愛らしい娘であった。先頃、学校を出たまま何処に居るか、行方が不明になったと云って、夜中大騒・・・ 宮本百合子 「二つの家を繋ぐ回想」
・・・家庭医ルシアン・ワリツキイ、侍女などを連れ、ロシアを去って、フランスに暮すようになった。マリアは少女時代を南フランスのニースで育った。当時ロシアの貴族はフランス語を社交語として暮していたばかりでなく、マリアのこういう特別な境遇が一層フランス・・・ 宮本百合子 「マリア・バシュキルツェフの日記」
・・・母は二人娘のあった長女で、父親っ子でしたが次女は母親っ子で、昔の家庭ですからお姑も居り、その人も「よっちゃん、よっちゃん」と可愛がるというありさまで、母は母親からは愛されていなかった。従って母に与えられる縁談は、先ほどのいかがわしい取引めい・・・ 宮本百合子 「わが母をおもう」
・・・長女藤姫は松平周防守忠弘の奥方になっている。二女竹姫はのちに有吉頼母英長の妻になる人である。弟には忠利が三斎の三男に生まれたので、四男中務大輔立孝、五男刑部興孝、六男長岡式部寄之の三人がある。妹には稲葉一通に嫁した多羅姫、烏丸中納言光賢に嫁・・・ 森鴎外 「阿部一族」
・・・長女いちが十六歳、二女まつが十四歳になる。その次に太郎兵衛が娘をよめに出す覚悟で、平野町の女房の里方から、赤子のうちにもらい受けた、長太郎という十二歳の男子がある。その次にまた生まれた太郎兵衛の娘は、とくと言って八歳になる。最後に太郎兵衛の・・・ 森鴎外 「最後の一句」
・・・ 天正十一年になって、遠からず小田原へ二女督姫君の輿入れがあるために、浜松の館の忙がしい中で、大阪に遷った羽柴家へ祝いの使が行くことになった。近習の甚五郎がお居間の次で聞いていると、石川与七郎数正が御前に出て、大阪への使を承っている。・・・ 森鴎外 「佐橋甚五郎」
・・・物集氏とかの二女史に対して薄いとかなんとか云うものがあるようだが、その二女史はどんな人か知らない。随って何とも云われない。 四、貨殖に汲汲たりとは真乎 漱石君の家を訪問したこともなく、またそれについて人の話を聞いたことも・・・ 森鴎外 「夏目漱石論」
・・・長女須磨子についで、二女美保子、三女登梅子と、女の子ばかり三人出来たが、かりそめの病のために、美保子が早く亡くなったので、お佐代さんは十一になる須磨子と、五つになる登梅子とを連れて、三計塾にやって来た。 仲平夫婦は当時女中一人も使ってい・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫