・・・うたもこんどは上等のをやりますから。みんな一しょにおどりましょう。さあ木の方も鳥の方も用意いいか。 おつきさんおつきさん まんまるまるるるん おほしさんおほしさん ぴかりぴりるるん かしわはかんかの かんからからららん ・・・ 宮沢賢治 「かしわばやしの夜」
・・・の苦悩と翹望とは、出来上っている社会の常套に承服しかねる一人の女、人間の叫びとして描かれたのであった。「伸子」一篇によって、作者はそれまで自分を生かして来た環境の、プラスもマイナスもくいつくした。もっと自然に、もっと伸びやかな人間らしさ・・・ 宮本百合子 「あとがき(『伸子』第一部)」
・・・そういう点だの技術的な俗習、鈍感さは、自動車の追跡場面とともに、映画の持つ根深い常套の一つであると思われる。「夢みる唇」や「罪と罰」の中の恋愛的場面は、それをありきたりな形に現わして説明せず、その裏の感情から画面に現わして行って十分の効・・・ 宮本百合子 「映画の恋愛」
・・・丹羽文雄氏が、放蕩はしてもよそへ子供は拵えない、何しろ子供にはかなわないからね、というようなことを、その常套性と旧い態度とに対して揶揄的高笑いをうける気づかいなしに、二十歳前後の若い女の座談会で云っていられる状態なのである。『文芸』十月・・・ 宮本百合子 「鴎外・漱石・藤村など」
・・・母子関係の常套には新しい窓がひらかれる必要がある。 被害者 犯罪に顛落する復員軍人が多いことについて、復員省は上奏文を出し「聖上深く御憂慮」という記事がある。亀山次官は「余りに冷酷な世間」と一般人民に責任があり・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・『仰日』の作者のみならず、わたくしたちは、散文・短歌何によらず、その道での常套で完成したのでは意味がないと思います。まして『檜の影』の同人でいられる方々の御生活、生きゆく思いの痛切なことは、言葉をつくせず、それだからこそ、存在のあかしと・・・ 宮本百合子 「歌集『仰日』の著者に」
・・・御都合がつきませんでしょうかと、あんまりいかめしい調子で云い迫ったので向うの奥さんらしい声はへどもどしながら、少し工合が悪くて横になって居るが、もうじきあがる様に申して居りましたと返事するのをきいて、常套手段の少々加減がを腹だたしく思わない・・・ 宮本百合子 「黒馬車」
・・・は、知られているとおり、十六歳の学問好きな、そして母から伝えられた根気よさと自立を愛する精神をもつ少女ジュヌヴィエヴが、第一次のヨーロッパ大戦前のフランスの中流生活の常套の中で、俗っぽく偽善的な父親が強いている「良俗」に反抗し、自分の独立と・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・これまでの家庭生活が若い女に加えている窮屈な常套をはねのけて、生活的によりひろい社会との接触の中に生きたいという欲望から、また、仕事そのものに興味があるということから、無邪気にこの社会の機構が思いつかせる悪計に利用されているのです。 職・・・ 宮本百合子 「現実の道」
・・・この主任は、事ごとに、彼から見れば所謂心理的な雑談をしかけ、警察的暗示を注入しようとするのが常套手段なのである。 自分は正面の窓から消防署の展望塔を眺めた。白ペンキで塗られた軽い骨組みの高塔は深い青葉の梢と屋根屋根の上に聳えて印象的な眺・・・ 宮本百合子 「刻々」
出典:青空文庫