・・・ 地下室の炊事場では、薯の皮むきからよごれた皿洗いから、みんな機械だ。白い上っぱりにコック帽の料理人、元気な婦人労働者たち、食事をしに来る勤労者のために玄関わきにひろい洗面所がある。料理場で働いている連中には、専用の浴室があった。 ・・・ 宮本百合子 「ソヴェト労働者の解放された生活」
・・・洗濯をする、炊事、育児、そういうものをソヴェトでは出来るだけ社会的にしようとしている。炊事でもめいめいが台所で僅の材料を買って、時間を費して、大して美味くもないものを拵えて食べているより、モスクワでは既に出来ているが、大きな厨房工場、台所工・・・ 宮本百合子 「ソヴェト・ロシアの素顔」
・・・共同炊事や栄養食の配給ということは食べるものが清潔であるということが、いって見れば第一条件で、腐った鰯でも、卵でもそれが鰯である、卵であるという名目の上から抽象的なカロリーを計算して、そこに発生している猛毒の作用はぬいて食べさせられるとした・・・ 宮本百合子 「龍田丸の中毒事件」
・・・ 会合がすむとすぐ下の炊事場で、これらの人たちが分担している活動がはじまった。台の下やその他の隅々はまだ真新しいコンクリート床で、みんながきまって盛に往来するところだけ泥あとのついた炊事場で、ポンプをくみ上げる音、薪をわる音がおこった。・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・電力欠乏は、出勤前、つとめさき、つとめからかえってからの炊事において少なからず私たちの助けとなっていた電気コンロの使用を、ほとんど不可能にしました。交通事情は目に見えて悪化し、これまでより長い時間をかけてやっと帰宅して、これまでよりもっとも・・・ 宮本百合子 「婦人大会にお集りの皆様へ」
・・・さっぱりしたコンクリートの、隅々まで整頓された炊事場。洗濯所。一週間入院中は面会はさせない。ただ家から果物やジャムなんかを持って来ることは随意というわけで、入院産婦への見舞受付口には亭主らしい数人の男と七八人の籠を腕にかけた女連が立っている・・・ 宮本百合子 「モスクワ日記から」
・・・ほんの形ばかりの輪飾が軒、炊事用の清水の出口の樋などにかけてある。目につくのは、荒壁に干し連ねた瘠大根ばかり。羽根をつく女の児一人もなし。凧をあげる男児もなし。日向の枯草堤に、着物だけ着換えた娘三四人詰らなさそうに、通る私達を見物して居た。・・・ 宮本百合子 「湯ヶ島の数日」
・・・主人は少年の彼を女中代り、下男代りにこき使い、おまけに二人の炊事女がこれ又自分達の下働きとして追い廻す。ゴーリキイは後年当時を回想してこう書いている。「私は多く労働した。殆どぼんやりしてしまうまで働いた」と。 この境遇に一年辛抱したが、・・・ 宮本百合子 「逝けるマクシム・ゴーリキイ」
・・・ 結婚の問題にあたって、私たちを深刻に考えこませる托児所がないということ、炊事、洗濯が社会化された家事になっていないことが、離婚の場合、また切実な問題となり、桎梏となって来る。戦争による未亡人の生活の堂々めぐりのいたましさは、実に多くこ・・・ 宮本百合子 「離婚について」
・・・今日の社会では女が働いてかえってきて、やっぱり一人前に炊事、洗濯をやらなければならない。経済的にもそうしなければやってゆけない。それでも困るし、と共稼ぎの生活を女が躊躇すると同時に、せめて家庭をもったら女房は女房らしくしておかなければ、と共・・・ 宮本百合子 「若き世代への恋愛論」
出典:青空文庫