・・・螺旋状の縮みが伸びて、するすると一度にほごれ広がるものと見える。それでからすうりの花は、言わば一種の光度計のようなものである。人間が光度計を発明するよりもおそらく何万年前からこんなものが天然にあったのである。 からすうりの花がおおかた開・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・そうして星がちょうど糸を通過する瞬間を頭の中の時のテープに突き止めるのであるが、まだよく慣れないうちは、あれあれと思う間に星のほうはするすると視野を通り抜けてしまってどうする暇もない。しかし慣れるに従って星がだんだんにのろく見えて来る、一秒・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・巻き縮んだ黒焦の紙が一枚一枚するすると伸びて焼けない前のページに変る。その中からシャリアピンの悲しくも美しいバスのメロディーが溢れ出るのであった。 歴史に名を止めたような、えらい武人や学者のどれだけのパーセントが一種のドンキホーテでなか・・・ 寺田寅彦 「雑記帳より(2[#「2」はローマ数字、1-13-22])」
・・・すると浅い桐の底に、奥の方で、なにかひっかかるような手ごたえがしたのが、たちまち軽くなって、するすると、抜けてきたとたんに、まき納めてねじれたような手紙の端がすじかいに見えた。自分はひったくるようにその手紙を取って、すぐ五、六寸破いて櫛をふ・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・とルーファスは革に釣る重き剣に手を懸けてするすると四五寸ばかり抜く。一座の視線は悉く二人の上に集まる。高き窓洩る夕日を脊に負う、二人の黒き姿の、この世の様とも思われぬ中に、抜きかけた剣のみが寒き光を放つ。この時ルーファスの次に座を占めたるウ・・・ 夏目漱石 「幻影の盾」
・・・とたくさんのふくろうどもが、お月さまのあかりに青じろくはねをひるがえしながら、するするするする出てきて、柏の木の頭の上や手の上、肩やむねにいちめんにとまりました。 立派な金モールをつけたふくろうの大将が、上手に音もたてないで飛んでき・・・ 宮沢賢治 「かしわばやしの夜」
・・・「うわあい。」と一郎は言いましたが、なんだかきまりが悪くなったように、「石取りさないが。」と言いながら白い丸い石をひろいました。「するする。」こどもらがみんな叫びました。「おれそれであ、あの木の上がら落とすがらな。」と一郎は・・・ 宮沢賢治 「風の又三郎」
・・・博士は名刺をとり出して、何かするする書き込んでブドリにくれました。ブドリはおじぎをして、戸口を出て行こうとしますと、大博士はちょっと目で答えて、「なんだ、ごみを焼いてるのかな。」と低くつぶやきながら、テーブルの上にあった鞄に、白墨のかけ・・・ 宮沢賢治 「グスコーブドリの伝記」
・・・するとテねずみは紙切れを出してするするするっと何か書いて捕り手のねずみに渡しました。 捕り手のねずみは、しばられてごろごろころがっているクねずみの前に来て、すてきにおごそかな声でそれを読みはじめました。「クねずみはブンレツ者によりて・・・ 宮沢賢治 「クねずみ」
・・・その六列目にかけて見物していたら、幕間に――と云っても、メイエルホリド劇場にはするすると下りて来るカーテン幕はないから、つまり舞台から俳優が引っこんで、電車製作工場内部を示す構成だけ舞台の上にのこったとき、作者ベズィメンスキーが挨拶に出た。・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
出典:青空文庫