制限時間はすぎているのに、電車が来なくて有楽町の駅の群集は、刻々つまって来た。「もうそろそろ運動はじめたかい」 人に押されて、ゆるく体をまわすようにしながら、蔵原さんが訊いた。「これからだ」 江口さんは栃木・・・ 宮本百合子 「一刻」
・・・ 諸新聞には、三土内相その他政党首領たちの言葉として、制限連記制が不適当な方法であったことを強調された。婦人代議士のどっさり出たことも、この不適当な選挙方法の欠陥のあらわれのように語られた。市川房枝女史も、今の日本に三十九名もの婦人代議・・・ 宮本百合子 「一票の教訓」
・・・大名、武家に対して町人の服装は制限されていたから、表は木綿で裏には見事な染羽二重をつける服飾も、粋という名で町人の風俗となった。武家の能狂言に対して、芝居が発達した。その大門をくぐれば、武士も町人も同等な男となって、太夫の選択にうけみでなけ・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・と銘をつけた三斎公は、天晴なりとして、討たれた横田嫡子を御前によび出し、盃をとりかわさせて意趣をふくまざる旨を誓言させた。その後、その香木は「白菊」と銘を改め細川家にとって数々の名誉を与えるものとなったのであるが、彌五右衛門は、三斎公に助命・・・ 宮本百合子 「鴎外・芥川・菊池の歴史小説」
・・・ トルストイの性慾論より「結婚以前には多種多様の方法に依って、神及人類の為に直接尽すことが出来ても、結婚は活動範囲を制限して、独り神及び人類の本来の召使である子供の教養を切に要求させるにとどまる。」 斯う云う結婚生活・・・ 宮本百合子 「黄銅時代の為」
・・・産児制限と国の工業化が解決の一助だろう」。重ねて鈴木文史朗は「大家族をもっている月給取りは子供の少い上役より月収が多い。これは一面子供多産の奨励のようなものだ」といっているのである。読売新聞の時評はいち早くこの卓見に同調して、労働者に家族手・・・ 宮本百合子 「鬼畜の言葉」
・・・ モラトリアムで学生の学費一五〇円と制限されたが、この食糧難、住宅難、まして交通費の膨脹で、学生は帳面一冊買いにくいこととなった。文化の最も大切な資材である紙は決してやすくなっていない。印刷費は却って上って来ている。憲法草案第二十一条に・・・ 宮本百合子 「現実の必要」
・・・ガスの制限もゆるやかになりました。そして冬は石炭も手に入るであろう。 ここに、わたしたちを堪えがたくする現実の矛盾がある。理性のある社会の生活であると思うことのできないあからさまな不合理が強いられている。 社会の新しい歴史は人民によ・・・ 宮本百合子 「権力の悲劇」
・・・ 若し襖がそれなら、きっと張換えて住むと云う誓言で、Aにまかせたのである。 それ等の交渉の間、家主がプロフェッショナルでなく、丁寧に、又、親切気を持って居て呉れると云うことが、如何程我々をよろこばせたか判らない。 相当の家作持ち・・・ 宮本百合子 「又、家」
・・・かくて直ちに清兵衛が嫡子を召され、御前において盃を申付けられ、某は彼者と互に意趣を存ずまじき旨誓言いたし候。しかるに横田家の者どもとかく異志を存する由相聞え、ついに筑前国へ罷越し候。某へは三斎公御名忠興の興の字を賜わり、沖津を興津と相改め候・・・ 森鴎外 「興津弥五右衛門の遺書」
出典:青空文庫