・・・フランドン農学校の畜産学の先生は、毎日来ては鋭い眼で、じっとその生体量を、計算しては帰って行った。「も少しきちんと窓をしめて、室中暗くしなくては、脂がうまくかからんじゃないか。それにもうそろそろと肥育をやってもよかろうな、毎日阿麻仁を少・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
・・・が乱れとんで、出所も正体もわからないまま、五・一五、二・二六と人心をかきみだして行って、遂に、無判断無批判にならされた人民を破滅的な戦争に追いこんで行ったいきさつは、こんにちあらわれる二・二六実記と称するものをよんでさえ、よくうかがえます。・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・ 性の解放がジャーナリズムの上に誇張されているのに、現実の恋愛もたのしい結婚生活の可能もむずかしいために、街の女の生態は、かたぎの若い男や女の性感情にさえ動揺的な刺戟となっている。かたぎの娘と街の娘とをかぎる一本の線は、経済問題と性的好・・・ 宮本百合子 「偽りのない文化を」
・・・この日、ラジオの解説の時間は、戦時利得税、財産税というものの正体がつまるところは大衆課税であって、より多くの持てる者が、持たざるものよりも遙に有利に権力によって守られる仕組みにできていることを、確認させたのであった。この課税の方法によると大・・・ 宮本百合子 「女の手帖」
・・・小説の中では児玉榕子という名をもって存在している一人の女性の人生態度についての架空会見記を偶然よんだ。「風にそよぐ葦」は甚だひろくよまれている。戦争に反対し、軍国主義の非人間的だった時期の日本の悲劇を描くとされているのであるけれども、榕・・・ 宮本百合子 「傷だらけの足」
石川達三氏の「結婚の生態」という小説について、これまで文学作品として正面からとりあげた書評は見当らなかった。それにもかかわらず、この本は大変広汎に読まれている本の一つである。大変ひろく読まれながら、その読後の感想というもの・・・ 宮本百合子 「「結婚の生態」」
・・・のうちにも内包されていた一種の腕の面を発達させて、「結婚の生態」に今日到達している姿はなかなか面白いと思う。この野望に充ちた一人の作家は、作品をこなしてゆく腕にたよって、例えば「生きている兵隊」などでは、当時文壇や一般に課題とされていた知性・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・え直しの慾求と一緒に、着実にその疑問の一筋を辿って、自分の道を進もうとしている作家の存在も、決して見のがすことは出来ず、そういう作家と、そのような作家を志して文学修業を怠らない人々とが、窮局において、世態の大波小波を根づよく凌いで、未曾有の・・・ 宮本百合子 「今日の文学と文学賞」
・・・ この作品評で、宇野氏が生態の描写ということをよくないとして、おのずから系譜的作品がそれとちがうべきことを暗示していることも興味がある。文学精神の低さについて関心を示している青野氏が、この作品が生態描写風に傾いていることは肯定して、生態・・・ 宮本百合子 「今日の文学の諸相」
・・・ 文学にあらわれたこの深淵は一般に微妙な時代的翳をなげていて、現代小説では人間の社会的な生活の物語と所謂生態描写との本質上の区別がぼやかされて来ているし歴史小説の分野では、時代と環境との客観的意義の評価を見直すことでは前進しつつ、そこに・・・ 宮本百合子 「昭和十五年度の文学様相」
出典:青空文庫