・・・その方面に関心をもっている人々は、明らかに自分たちの今日から明日への現実的な生き方を念頭において研究をも試みているのであり、日本の女性史の一瞬にパッと閃いて、やがてより濃い闇に埋められた「青鞜時代」のロマンティックな女性史への興味とは、おの・・・ 宮本百合子 「先駆的な古典として」
・・・p.276◎無信仰の十字架に釘づけになった彼は民衆の前に正統派の教えを説き、智識は分裂し燃焼するということを知っていたので これを抑圧し、そして聖書に即した厳格な農民の信仰に、幸福を与えるような虚言を説教したのである。p.277◎彼・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・母と一番多く衝突をした娘である私、生活の上で一つ一つと心にのこるような大きい事柄では頑固な程母の期待とは違うように動かなければならなかった娘である私が、長い歴史の目で見れば、女性としての母の生涯の一番正統な根気づよい発展者であろうと希ってい・・・ 宮本百合子 「母」
・・・をつけて呼んだバルザックが政治的に正統王朝派であったことは、同じバルザックが「牧師」の中でマルクスの心を打ったほど鋭く現実の資本主義商業の成り立ちを喝破していることと撞着するものでないというのが、バルザックの花車を押し出した一部のプロレタリ・・・ 宮本百合子 「バルザックに対する評価」
・・・ こんな場合につかわれた便乗は、そのころはやり出した便乗ということばの、最も正統な、また最も素朴な使いかたであった。便乗という言葉は、バスにのりおくれまい、という表現と前後した。翼賛議員になる時勢のバスにのりおくれまいとあわてる人々の姿・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
・・・「細雪」のようにきょうの一般の現実には失われた世界の常識にぬくもって、美文に支えられているとき、野上彌生子が、「迷路」にとりくんでいることは注目される。「青鞜」の時代、ソーニャ・コヴァレフスカヤの伝記をのせたが、青鞜の人々の行動の圏外にあっ・・・ 宮本百合子 「婦人作家」
・・・ 一葉の時代でも或る種類の――内田魯庵という風な評論家たちはやはり一葉なんかの文学に対していろいろ疑問を持っていたけれども、平塚雷鳥の出た明治四十年頃、青鞜社の時代という頃には女の人自身が自分達で自分達の才能を発揮するようにという希望で・・・ 宮本百合子 「婦人の創造力」
・・・ アメリカの社会の成り立ちの性質は、この小説の主人公クライドのような貧しい、正統な教育もさずけられていない、孤独な青年の胸のなかにも、出身や栄達の希望と空想とを抱かせる一応のデモクラシーがあるようで、デモクラシーの名とともに燦く富の力は・・・ 宮本百合子 「文学の大陸的性格について」
・・・二人とも、コロレンコにあっては知的蓄積、ゴーリキイにあってはその鋭い生活的追求力にもかかわらず、正統なマルクスの唯物論というのは、複雑な現実を切って殺して理論の四角い枠にはめるのでなく、逆に最も錯綜し、からみあった事物そのものの根元的矛盾を・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの人及び芸術」
・・・が現れた十八世紀のイギリスでは、女のおかれている事情を自分たちの努力でましなものにしようとしてモンタギュー夫人が率先して、二世紀も後に日本へその名がつたわった「青鞜」がすでに組織された、ということも、何か私たちには忘れられない。 ところ・・・ 宮本百合子 「三つの「女大学」」
出典:青空文庫