・・・「西部戦線」の最後の幕で、塹壕のそばの焦土の上に羽を休めた一羽の蝶を捕えようとする可憐なパウルの右手の大写しが現われる。たちまち、ピシンと鞭ではたくような銃声が響く。パウルの手は瞬時に痙攣する、そうして静かに静かに力が抜けて行くのである。・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・「西部戦線異状なし」は、今日の映画としては、別にこれといって頭に残るほどのものもなかったようである。ただあまりわざとらしいような芝居が割合に少なく思われたのは成効かもしれない。河畔の営舎の昼飯後の場面が、どこかのどかでものうげで、そうし・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・これは国有の西部鉄道の悪口だそうです。それからだんだんに各区の女皇の車が来る。女皇たちは皆にこにこして道の両側にキッスを投げかけている。ワアワアと見物人がはやす。日光が強いので暑そうに顔をしかめているのもある。いろいろの商業団体の旗も来る。・・・ 寺田寅彦 「先生への通信」
・・・そのために特別な科学的研究機関もあり、あまり理想的ではないまでもともかくも各種の研究が行なわれ、その結果はある程度まで有効に予防と消火の実際に応用されている。西部の森林地帯では「火事日和」なるものを指定して警報を発する設備もあるようである。・・・ 寺田寅彦 「函館の大火について」
・・・又はレマルクの「西部戦線異状なし」バルビュスの「砲火」などを読んだ人々は、燈火管制下の夜の凄さというものは、仮死どころか、その闇の中にあって異常に張りつめられている注意、期待、決意がかもし出す最も密度の濃い沈黙的緊張の凄さであることを、実感・・・ 宮本百合子 「明日の言葉」
・・・にはじまる十九世紀の自然主義からロシアの批判的なリアリズムを通じてレマルクが「西部戦線異状なし」から「凱旋門」に至ったヨーロッパ――フランス、ドイツの恐ろしい三〇年間の社会と文学のいきさつを追求してみなければならないことを意味する。そして、・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・ 西部の人として強い血気を蔵していた両親の娘であるアグネスの曠野育ちらしい血気は、一口にアメリカの女といってもボストンあたりの淑女とは質が違っている。腰にピストルをつけ、カウボーイと馬に騎り、小学生のときからひとの台処で働かねばならなか・・・ 宮本百合子 「中国に於ける二人のアメリカ婦人」
・・・ 今年は九月下旬から十月初旬にかけて日本西部が深刻な風水害をうけた。山陽本線は一ヵ月も故障したのであった。義弟が原子爆弾の犠牲となったため田舎へ帰ったが、急な帰京が必要となって、呉線の須波―三原の間、姫路の二つ三つ先の駅から明石まで、徒・・・ 宮本百合子 「みのりを豊かに」
・・・その頃は第一次帝国主義世界戦争で皇帝資本家地主は自身の利益のため、労働者農民を何十万人と西部戦線で殺していた。国内では工場が閉鎖され、農村で働き手がなくなって、パンが欠乏し、全く窮乏のドン底に陥っているのに、搾取者どもは、猶も愛国主義をふり・・・ 宮本百合子 「ロシア革命は婦人を解放した」
・・・は、ナチスの侵略で旧いポーランドの権力が崩壊し、西部ウクライナが解放され、そこに新しい農地と新しい人間関係が生れいく姿が描かれた。 ワンダ・ワシレーフスカヤは、現代の能力ある前衛婦人の一つの典型のように働いている。世界平和と民族の自立、・・・ 宮本百合子 「ワンダ・ワシレーフスカヤ」
出典:青空文庫