・・・尤もその日は特に蒸暑かったのに、ああいう、設計者が通風を忘れてこしらえた美術館であるためにそれが更に一層蒸暑く、その暑いための不愉快さが戸惑いをして壁面の絵の方に打つかって行ったせいもあるであろう。実際二科院展の開会日に蒸暑くなかったという・・・ 寺田寅彦 「烏瓜の花と蛾」
・・・特別な設計をした振動台の上に固定された椅子に被試験者を腰掛けさせ、そうしてその台にある一定週期の振動を与えながらその振幅をいろいろに増減する。そうしてちょうど振動感覚の限界に相当する振幅を測定する。次には週期を変えて、また同じ事をする。そう・・・ 寺田寅彦 「空想日録」
・・・汽車に乗ればやがて斧鉞のあとなき原始林も見られ、また野草の花の微風にそよぐ牧場も見られる。雪渓に高山植物を摘み、火口原の砂漠に矮草の標本を収めることも可能である。 同種の植物の分化の著しいことも相当なものである。夏休みに信州の高原に来て・・・ 寺田寅彦 「日本人の自然観」
・・・ これ等の事は、設計の掘鑿通り以外に、決して会社が金を出しはしない、と云う事に起因していた。何故かなら会社で必要なのは、一分一厘違わず、スポッとその中へ発電所が嵌りさえすればいいのだったから。 川下の方の捲上げ道を登れば、そのまま彼・・・ 葉山嘉樹 「坑夫の子」
・・・「一、山男紫紺を売りて酒を買い候事、山男、西根山にて紫紺の根を掘り取り、夕景に至りて、ひそかに御城下(盛岡へ立ち出で候上、材木町生薬商人近江屋源八に一俵二十五文にて売り候。それより山男、酒屋半之助方へ参り、五合入程の瓢箪を差出し、こ・・・ 宮沢賢治 「紫紺染について」
・・・仕方がないから両様の好みを入れて一軒建てようということにして設計までいたしておりますが、これも今のところ私達の理想に止まってなかなか実現されそうにありません。こうした些細な慾望や、理想は兎も角として、この地上に誰れもが求め、限りもなくのぞむ・・・ 宮本百合子 「愛と平和を理想とする人間生活」
・・・私たちは、近代の科学で設計され、動的で、快活で、真情に富んだ雄々しい明日の船出を準備しなければならないのだと思う。〔一九四〇年二月〕 宮本百合子 「新しい船出」
・・・ 貴方が設計図のやり直しを厭うからと云って、私は労働婦人たちに必要なものを許すことは止めません。もう托児所のことには署名がすんでいるのです。」 この技師とトラストへ出かけようとするインガを、ドミトリーが傍の思わくもかまわず止めた。「・・・ 宮本百合子 「「インガ」」
・・・それから今にアルプスの雪景のドイツ版の写真帳を送ります。チンダルの『アルプス紀行』はもうおよみになりましたか。お気に入りましたか? 私は写真で涼ましてあげたいと思うのです。この花の匂いは庭の白いくちなし。匂います? 今晩封じこめておいてあし・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・[自注18]愛情のこもった遺物――建築家であった百合子の父は一九三五年ごろ、百合子の住む家の設計図をいくとおりも作った。百合子にも住む家ぐらい何とかしてやりたい、と。百合子は、それが実現するとは思わず、またそれを維持してゆく経済・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
出典:青空文庫