・・・ 先頭の百姓が、そこらの幻燈のようなけしきを、みんなにあちこち指さして「どうだ。いいとこだろう。畑はすぐ起せるし、森は近いし、きれいな水もながれている。それに日あたりもいい。どうだ、俺はもう早くから、ここと決めて置いたんだ。」と云い・・・ 宮沢賢治 「狼森と笊森、盗森」
・・・烏の大尉は先登になってまっしぐらに北へ進みました。 もう東の空はあたらしく研いだ鋼のような白光です。 山烏はあわてて枝をけ立てました。そして大きくはねをひろげて北の方へ遁げ出そうとしましたが、もうそのときは駆逐艦たちはまわりをすっか・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・ それから戦闘艦隊が三十二隻、次々に出発し、その次に大監督の大艦長が厳かに舞いあがりました。 そのときはもうまっ先の烏の大尉は、四へんほど空で螺旋を巻いてしまって雲の鼻っ端まで行って、そこからこんどはまっ直ぐに向うの杜に進むところで・・・ 宮沢賢治 「烏の北斗七星」
・・・右手より曹長先頭にて兵士一、二、三、四、五、登場、一列四壁に沿いて行進。曹長「一時半なのにどうしたのだろう。バナナン大将はまだやってこない胃時計はもう十時なのにバナナン大将は帰らない。」正面壁・・・ 宮沢賢治 「饑餓陣営」
・・・地学博士を先登に、私たちは、どやどや、玄関へ降りて行きました。たちまち一台の大きな赤い自働車がやって来ました。それには白い字でシカゴ畜産組合と書いてありました。六人の、髪をまるで逆立てた人たちが、シャツだけになって、顔をまっ赤にして、何か叫・・・ 宮沢賢治 「ビジテリアン大祭」
一 陽子が見つけて貰った貸間は、ふき子の家から大通りへ出て、三町ばかり離れていた。どこの海浜にでも、そこが少し有名な場所なら必ずつきものの、船頭の古手が別荘番の傍部屋貸をする、その一つであった。 ・・・ 宮本百合子 「明るい海浜」
・・・某誌が軍部御用の先頭に立っていた時分、良人や息子や兄弟を戦地に送り出したあとのさびしい夜の灯の下であの雑誌を読み、せめてそこから日本軍の勝利を信じるきっかけをみつけ出そうとしていた日本の数十万の婦人たちは、なにも軍部の侵略計画に賛成していた・・・ 宮本百合子 「新しい潮」
・・・戦争中は少尉や中尉で、はためにいい気持そうに威張って何年も軍隊生活にいた人が、きょうは民主陣営の先頭に立って、同じように何の疑問もなく「おくれた大衆」という。それはどういう日本の特徴なのだろうかと思って。 進歩性の問題は、ツルゲーネフが・・・ 宮本百合子 「新しい抵抗について」
・・・そして毎日、新聞で見る今日の銃後の女としての服装もエプロン姿から、たとえそれがもんぺいであろうと、作業服式のものであろうと、ひとしくりりしい裾さばきと、短くされたたもととをもって、より戦闘的な型へ進んで来ているのである。 私たち女は一年・・・ 宮本百合子 「新しい婦人の職場と任務」
・・・などを先頭として。同時に『新思潮』という文学雑誌を中心に芥川龍之介が「鼻」「羅生門」などを発表し、菊池寛が「無名作家の日記」を発表したりした時代であった。婦人作家として、野上彌生子が「二人の小さきヴァガボンド」を発表し、ヨーロッパ風な教養と・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第一巻)」
出典:青空文庫