・・・そのうちで、戦闘員だったものは千五百万人、最低その三倍の非戦闘員が、空襲とナチスやファシストの強制収容所、地下の抗戦運動で殺害されている。日本の軍部は、太平洋戦争で百八十五万人を死なせた。全国には百八十万人の未亡人が飢餓線に生きている。千円・・・ 宮本百合子 「あとがき(『宮本百合子選集』第八巻)」
・・・文学報国会の大会では、軍人が挨拶をし、一九三一、二年代に、文学の純粋性といって、プロレタリア文学に極力抵抗した作家たちが、群をなして軍国主義御用の先頭に立ったのであった。 こういう文化上の悲劇、作家一人一人の運命についていえば目もあ・・・ 宮本百合子 「ある回想から」
・・・そして、外国の新聞はこの戦闘行為の性質を解剖して、その背後の勢力を考えるとこの白沙漠に於ける戦闘はスペインの内乱の如き性質を持つものであると言っている。 今やイタリーにとってアフリカの植民地問題は従来のような人口問題の解決法としての域を・・・ 宮本百合子 「イタリー芸術に在る一つの問題」
・・・彼が戦闘的唯物論者らしく部落内の現象の分析綜合をなし得たら、「彼女の古い精神がいかに社会変革をきらっていようとも彼女のからだ――生活はこれを熾烈に要求しているのだ。要求せざるを得なくなっているのだ。」という二元論は成り立たぬであろう。古い伝・・・ 宮本百合子 「一連の非プロレタリア的作品」
・・・ 何かいざこざが起ったりすると、目顔ですがるお君を見向きもしないで、盲滅法に、床屋だの銭湯に飛び込んだ。 そうも出来ない時には、部屋の隅にかたく座って、眼も心もつぶって、木像の様に身動きさえもしなかった。 只、専ら怖れて居ると云・・・ 宮本百合子 「栄蔵の死」
・・・これは一九三三年六月に佐野学、鍋山貞親を先頭とする「転向」の濁流の渦巻きとともにあらわれた。その有様のあさましさは今日の想像しにくい毒気をまきちらした。 もとより、一九三一――三年間の、日本におけるプロレタリア文化・芸術運動の方針が、そ・・・ 宮本百合子 「解説(『風知草』)」
・・・家庭では母を先頭としての女性たちが、毎日苦心して台所の運用をやっていて夜の茶の間の話題もそれで賑わう。すこし年嵩な青年たちはこういう話をきくにつけても身体の健康な、家政になれた女性を妻としなければ、とてもこれからは、やって行けないという感想・・・ 宮本百合子 「家庭と学生」
・・・工場はその先頭にたっていた。 五箇年計画は、第一に重工業の生産拡大を眼目としている。「鎌と鎚」は全ソヴェト同盟内でも有数な金属工場だ。古いボルシェビキで、国内戦のときは、一方の指揮者となって戦ったプロレタリア作家タラソフ・ロディオーノフ・・・ 宮本百合子 「「鎌と鎚」工場の文学研究会」
・・・ 中国をケシかけ、ポーランドを操るだけでは我慢出来なくなった列国は、一九三〇年の初めローマ法王を先頭にして、反ソヴェト十字軍を起してドッと攻めかけようとした。その口実はこうだった。「ソヴェト同盟で宗教の自由が奪われているのは人類の正義に・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・ この頃は城壁内の青草が茂って、ビザンチン式の古風な緑や茶色の尖塔はなかなか趣ある眺望だ。円屋根にひるがえる赤旗は、まわりを古風な建物がとりかこんでいるだけかえって新鮮で、光る白い雲の下で夏の歓びにあふれている。 クレムリンの城壁が・・・ 宮本百合子 「子供・子供・子供のモスクワ」
出典:青空文庫