・・・ これからそろそろと御意なりに落しにかかろうとする獲物に対する非常に粗野な残酷な愛情に似た一種の感情の発露なのである。 年寄りは、着々成功しかかる自分の計画の巧さに、我ながら勢立ってますます元気よく朝から晩まで、馳けずりまわって働い・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・ こんな農民だとか、土方などと云う労働者によく見る様な、あの細い髪がチリチリと巻かって、頭の地を包み、何となく粗野な、惨酷な様な感じを与える頭の形恰をこの男は持って居るけれ共、不思議な事には心はまるで反対である。 紺無地の腰きりの筒・・・ 宮本百合子 「農村」
・・・ 日本の若い女のひとが、若さを衣服の赤勝ちな色でだけ示している習慣をよく気の毒にも粗野にも思って眺める。そういう色の溢れた中から、パッと鮮やかな若い眼や唇がとび込んで来ることは非常に稀である。燃えるような紅をもっとしまった効果で、小さく・・・ 宮本百合子 「働くために」
出典:青空文庫