・・・ 視覚的映画に聴覚的な音響を付加することは本質的に異なる別の次元を新たに増加することであるが、色彩の付加は単に視覚的なものの属性の補充に過ぎない。それだから、たとえば色彩再現の科学的技術がいかに発達したとしても、それがために発声映画がも・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・しかしこういう流動に、さらに貨物車の影がレールの上を走るところなどを重出して、結局何かしら莫大な運動量を持ったある物が加速的にその運動量を増加しつつ、あの茫漠たるアジア大陸の荒野の上を次第に南に向かって進んでいるという感じがかなりまで強く打・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・たとえ日進月歩の新知識を統括する方則や原理の数はそれほど増さないとしても、これによって概括せらるべき事実の数は次第に増加して来るばかりである。従って勢い物理学の中でもだんだんに専門の数が増加しその範囲が狭くなる。この勢いで進んで行けば物理学・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・何とならば、学術を真剣に研究する研究者の数が増加すれば、そのうちで相当立派な成績をあげて学位授与に十分な資格を具備する人の数も増加するのは数理的に当然のことだからである。多数の研究者のうちで、何かしら一つの仕事に成功して学位を得る人の数が研・・・ 寺田寅彦 「学位について」
・・・ 最も変わったレコードとしては、アメリカのコーラスガールで、接吻の際における心臓鼓動数の増加が毎分十五という数字を得ているのがある。次点者は十三という数で惜敗したそうである。しかし事前におけるノルマルの鼓動数が書いてないから増加のパーセ・・・ 寺田寅彦 「記録狂時代」
・・・こうした造化の設計には浅墓なわれわれには想像もつかないような色々の意図があるかもしれないという気がする。 以上のような花に比べると例えばホタルブクロのような大きな花は却って二十倍くらいに廓大して見てもそれ程びっくりするような意外な発見は・・・ 寺田寅彦 「高原」
・・・ これらの平凡すぎるほど平凡な事実の中に、実に驚嘆すべき造化の妙機のあることに今まで少しも心づかないでいたのが、今度の子供の災難に会って始めて少しばかりわかりかけて来たような気がする。 犬や猫はこれをちゃんと心得ているようである。そ・・・ 寺田寅彦 「鎖骨」
・・・しかしことによると前日新宿の百貨店で造花の売り場の前を通ったときの無意識の印象が無意識な過程を通じてこれに関係しているのかもしれない。 法事の場面については心当たりがある。前夜の夕刊に青森県大鰐の婚礼の奇風を紹介した写真があって、それに・・・ 寺田寅彦 「三斜晶系」
・・・ 写生文を鼓吹した子規、「草花の一枝を枕元に置いて、それを正直に写生していると造化の秘密がだんだん分って来るような気がする」と云った子規が自然科学に多少興味を有つという事は当然であったかも知れない。『仰臥漫録』に「顕微鏡にて見たる澱・・・ 寺田寅彦 「子規の追憶」
・・・ 一本の麻縄に漸次に徐々に強力を加えて行く時にその張力が増すに従って、その切断の期待率は増加する。しかしその切断の時間を「精密に」予報する事は六かしい、いわんやその場処を予報する事は更に困難である。 地震の場合は必ずしもこれと類型的・・・ 寺田寅彦 「地震雑感」
出典:青空文庫