・・・最後に、肩と頭と一団になったと思うと――その隊長と思うのが、衝と面を背けました時――苛つように、自棄のように、てんでんに、一斉に白墨を投げました。雪が群って散るようです。「気をつけ。」 つつと鷲が片翼を長く開いたように、壇をかけて列・・・ 泉鏡花 「雪霊続記」
・・・聨隊長はこの進軍に反対であったんやけど、止むを得ん上官の意志であったんやさかい、まア、半分焼けを起して進んで来たんや。全滅は覚悟であった。目的はピー砲台じゃ、その他の命令は出さんから、この川を出るが最後、個々の行動を取って進めという命令が、・・・ 岩野泡鳴 「戦話」
・・・そのころ東成禁酒会の宣伝隊長は谷口という顔の四角い人でしたが、私は谷口さんに頼まれて時々演説会場で禁酒宣伝の紙芝居を実演したり、東成禁酒会附属少年禁酒会長という肩書をもらって、町の子供を相手に禁酒宣伝や貯金宣伝の紙芝居を見せたりしました。そ・・・ 織田作之助 「アド・バルーン」
昨日 当時の言い方に従えば、○○県の○○海岸にある第○○高射砲隊のイ隊長は、連日酒をくらって、部下を相手にくだを巻き、○○名の部下は一人残らず軍隊ぎらいになってしまった。 彼は蓄音機という綽名を持ち、一年三百六十五日、一日も・・・ 織田作之助 「昨日・今日・明日」
・・・その朝、隣組の義勇隊長から義勇隊の訓練があるから、各家庭全員出席すべしといって来た。「どんな訓練ですか」「第一回だから、整列の仕方と、敬礼の仕方を教えて、あとは講演です」 と、いう。「僕は欠席します。整列や敬礼の訓練をしたり・・・ 織田作之助 「終戦前後」
・・・その家にもう一人小隊長と呼ばれている家族がいる。当年七歳の少年である。小隊長というのは彼等三人の中隊長であった人の遺児であるからそう名づけたのであろう。父中隊長の戦死後その少年が天涯孤独になったのを三人が引き取って共同で育てているのだ。・・・ 織田作之助 「電報」
・・・ 御最後川の岸辺に茂る葦の枯れて、吹く潮風に騒ぐ、その根かたには夜半の満汐に人知れず結びし氷、朝の退潮に破られて残り、ひねもす解けもえせず、夕闇に白き線を水ぎわに引く。もし旅人、疲れし足をこのほとりに停めしとき、何心なく見廻わして、何ら・・・ 国木田独歩 「たき火」
・・・しんとしてさびしい磯の退潮の痕が日に輝って、小さな波が水際をもてあそんでいるらしく長い線が白刃のように光っては消えている。無人島でない事はその山よりも高い空で雲雀が啼いているのが微かに聞こえるのでわかる。田畑ある島と知れけりあげ雲雀、これは・・・ 国木田独歩 「忘れえぬ人々」
・・・日本語と露西亜語がなか/\達者な、月三十円で憲兵隊に使われている男だった。隊長は犯人を検挙するために、褒美を十円やることを云い渡してあった。密偵は十円に釣られて、犬のように犯人を嗅ぎまわった。そして、十円を貰って嬉しがっている。憲兵は、松本・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・ 彼は、もと大隊長の従卒をしていたことがあった。そこで、将校が食う飯と、兵卒のそれとが、人間の種類が異っている程、違っているのを見てきているのであった。 晩に、どこかへ大隊長が出かけて行く、すると彼は、靴を磨き、軍服に刷毛をかけ、防・・・ 黒島伝治 「橇」
出典:青空文庫