・・・油井のところからみのえだけ母親の代理に一人浜町へやられた。叔母と向い合っている間じゅう、叔母の眼鼻だちのすき間に油井の二階に坐ってこっち向いている母親の姿がちらちらして、みのえは自分で何を喋っているのか分らなかった。その気持が母親の話でみの・・・ 宮本百合子 「未開な風景」
・・・ 彼の住居は八條にあった。内裏までかなり遠い。冬だと、彼はその道中に、餅の大きなの一つ、小さいのを二つ焼いて、温石のように体につけて持って行った。京の風に、焼いた餅はいくばくもなくさめる。ぬるくなると、彼は、小さい餅なら一つずつ、大きな・・・ 宮本百合子 「余録(一九二四年より)」
・・・ところが筑紫へ赴任する前に、ある日前栽で花を見ていると、内裏を拝みに来た四国の田舎人たちが築地の外で議論するのが聞こえた。その人たちは玉王を見て、あれはらいとうの衛門の子ではないかと言って騒いでいたのである。玉王はそれを聞いて、自分が鷲にさ・・・ 和辻哲郎 「埋もれた日本」
・・・従って他の人のなすべきことを代理する場合には、他の人のペルソナをつとめるということになる。そうなるとペルソナは行為の主体、権利の主体として、「人格」の意味にならざるを得ない。かくして「面」が「人格」となったのである。 ところでこのような・・・ 和辻哲郎 「面とペルソナ」
出典:青空文庫