・・・ 中等学校への入学試験が内申制になってから、一人の子供を上の学校へ入れるために百円から千円の金がいるようになった、というような記事が、昨今は世人の注目と関心とをひいている。小川代議士の質問にちっともそういう面がとりあげられなかったのは、・・・ 宮本百合子 「待呆け議会風景」
・・・丁度、美術愛好者が、古代ギリシャ建築の明美な柱列を見た時、心を打れ、何はともあれ、アカンサスの葉で飾られた精緻な柱頭と、単純で力強い柱台とに注意を向けた如く、学徒が、狂暴な程、雑多な原質の目覚める青年期、不思議に還元的色彩を帯びる更年期を特・・・ 宮本百合子 「われを省みる」
・・・栄養は中等です。悪性腫瘍らしい処は少しもありません」「ふん。とにかく見よう。今手を洗って行くから、待ってくれ給え。一体医者が手をこんなにしてはたまらないね、君」 花房は前へ出した両手の指のよごれたのを、屈めて広げて、人に掴み付きそう・・・ 森鴎外 「カズイスチカ」
・・・汽車の中等室にて英吉利婦人に逢う。「カバン」の中より英文の道中記取出して読み、眼鏡かけて車窓の外の山を望み居たりしが、記中には此山三千尺とあり、見る所はあまりに低しなどいう。実に英吉利人はいずくに来ても英吉利人なりと打笑いぬ。長野にて車を下・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫