・・・大火が起これば旋風を誘致して炎の海となるべきはずの広場に集まっていれば焼け死ぬのも当然であった。これは事のあった後に思うことであるが、われわれにはあすの可能性はもちろん必然性さえも問題にならない。 動物や植物には百千年の未来の可能性に備・・・ 寺田寅彦 「からすうりの花と蛾」
・・・の襲来を受けるほかに、かなりしばしば猛烈な大旋風トルナドーに引っかき回される。たとえば一九三四年の統計によると総計百十四回のトルナドーに見舞われ、その損害額三百八十三万三千ドル、死者四十名であったそうである。北米大陸では大山脈が南北に走って・・・ 寺田寅彦 「災難雑考」
・・・という書物によると、関東地方にこの現象が多いらしい、旋風が吹きおこって「通行人の身にものあらくあたれば股のあたり縦さまにさけて、剃刀にて切りたるごとく口ひらけ、しかも痛みはなはだしくもなし、また血は少しもいでず、うんぬん」とあり、また名字正・・・ 寺田寅彦 「化け物の進化」
・・・ 私はとりとめもないことを旋風器のように考え飛ばしていた。 ――俺は飢えてるんじゃないか。そして興奮したじゃないか、だが俺は打克った。フン、立派なもんだ。民平、だが、俺は危くキャピタリスト見たよな考え方をしようとしていたよ。俺が何も・・・ 葉山嘉樹 「淫賣婦」
・・・追い込まれ、舟につかまろうとしても舟はやけて流れるのでたまらず、溺れ死ぬ、或は、他に逃げ場を失って持ち出した荷物に火がつき、そのまま死ぬ、被服廠の多数の死人も、四方火にとりかこまれた為、空気中に巨大な旋風が起り、火をまきあげたところへ、さっ・・・ 宮本百合子 「大正十二年九月一日よりの東京・横浜間大震火災についての記録」
・・・p.259○狂暴な循環の中に彼らの意欲の旋風は渦巻いている。p.260○われわれは彼以前にこれほど密集的な感情の多様を知らず われわれの霊的混淆についてこれほど多くを知らなかったのである。p.261◎われわれの認識の豊かさに徴し・・・ 宮本百合子 「ツワイク「三人の巨匠」」
・・・ けれども、すぐ旋風が過ぎてしまうと、後には子供達に顔を見られるのも堪らないような気恥かしさが残るので、彼女は照れ隠しにわざとどこかへ喋りに飛び出してしまうのである。 妙にぎごちない、皆が各自の底意を見抜きながら、僅かの自尊心で折れ・・・ 宮本百合子 「禰宜様宮田」
・・・日本における外国文学翻訳の現状、プラーゲ旋風の不当、日本翻訳家協会設立等について各国代表の理解が求められたそうである。文学作品ではないが「新しき土」に対する日本の有識者間の批評とドイツの批評との間に横るグロテスクな現代的矛盾についてなど若し・・・ 宮本百合子 「ペンクラブのパリ大会」
・・・そうしたら一部のものは、自分自身も、悦ばしい旋風のように動き出すだろう。ゴーリキイは、苦痛と期待との間で揺れる心で沈思するのであった。「此の自分を何とかしなければならない。さもないと、俺は破滅してしまう……」 人生の袋小路からの脱け・・・ 宮本百合子 「マクシム・ゴーリキイの伝記」
・・・この柵草紙の盛時が、即ち鴎外という名の、毀誉褒貶の旋風に翻弄せられて、予に実に副わざる偽の幸福を贈り、予に学界官途の不信任を与えた時である。その頃露伴が予に謂うには、君は好んで人と議論を闘わして、ほとんど百戦百勝という有様であるが、善く泅ぐ・・・ 森鴎外 「鴎外漁史とは誰ぞ」
出典:青空文庫