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・・・「出花を入れ替えてまいりました、さあどうぞ……」「あ、今おりて湖水のまわりを廻ってくる」「お二人でいらっしゃいますの……そりゃまあ」 女中は茶を注ぎながら、横目を働かして、おとよの容姿をみる。おとよは女中には目もくれず、甲斐・・・
伊藤左千夫
「春の潮」
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・・・ そこからは、入りくんだ海の面と、そのむこうに細かく建物のつまった出鼻の山の景色が見える。今太陽は海、出鼻の上を暖かく照らし、岸壁でトロを押している支那人夫の背中をもてらしている。 ウラジヴォストクでは、町の人気も荒そうに思われてい・・・
宮本百合子
「新しきシベリアを横切る」