・・・ 客観すれば病的な、そういう苦しく、いとしい精神表現がたがいの癖となってしまっているとき、にわかにぱっと窓があいて、光線が一時にさしこんできたとき、火花のようだった符号を朗々とした全文に吐露しなおし、それを構成して、たちどころにそれをひ・・・ 宮本百合子 「現代の主題」
・・・ 文芸欄のある新聞は『都』だけだったので、またとろうとしたら『国民』と合併になって、『東京新聞』という名になっていました。内幸町の新しい船のような白い『都』の建物は中身がどうなっているでしょう。それでも細かく一頁を使って、いくらか特色を・・・ 宮本百合子 「獄中への手紙」
・・・ 詩吟というものは、ずっと昔も一部の人は好んだろうが、特に幕末から明治の初頭にかけて、当時の血気壮な青年たちが、崩れゆく過去の生活と波瀾の間に未だ形をととのえない近代日本の社会の出生を待つ時期の感懐を吐露するてだてとして流行したものであった・・・ 宮本百合子 「今日の生活と文化の問題」
・・・ 昔円本が売れた時代の一般の心理に立ちいってふれてみれば、あの頃だって、さてこれで一通り箪笥、長火鉢も恰好がついたから本でも買っておくか、という気持で、そんなら円本でもとろうかと、そして買った人は随分多かったのだろうと思う。どんな文学書・・・ 宮本百合子 「今日の読者の性格」
・・・マイヨール独特の親しみぶかいふっくらした裸婦が足にささった小さなとげをとろうとしているところである。その彫像が久しぶりで訪ねた鷺の宮の家のたんすの上に飾られていた。ああここに来ていると思ってながめながら、座布団の上に坐ったとき、わたしは、そ・・・ 宮本百合子 「さしえ」
・・・その場合、その勤人は、勤め先そのものの機械性、冷血に苦しむ苦しさを、組合としての要求の中に一部吐露しうる。苦しむ市民的自分はそこで複雑となり、勤労者としてのわれわれという表現をとる。昔のプロレタリア文学は、そこでハピー・エンドであった。今日・・・ 宮本百合子 「作家の経験」
・・・われわれは、丈夫な頸骨と眼力とをもって、すべての古典作家から滋養をとろうとするのである。が、そのやりかたは、古典作家、たとえばドストイェフスキーなどが癲癇という独特な病気をもちながら、彼の生きた時代のロシアの歴史の制約性と、自身の限界性によ・・・ 宮本百合子 「新年号の『文学評論』その他」
・・・ 獄中におけるローザの手紙は、その中に吐露されている自然の鳥や花に対する優しい情緒や憧憬やに充ちている点で有名である。そのような環境の中にあって公然と書き得る手紙の内容は略きまったものであることは云えるのだが、私はあのように不屈であり、・・・ 宮本百合子 「生活の道より」
・・・ マッチから指紋をとろうとしなかったか 指紋をとることを思いつかなかったか 又煙はどっちへ流れたか 素人らしき熱心さ、若々しさ。これはよい心持だ。 ○新恋愛探訪 颯爽として生活力的な恋愛一つもなし。 三つの記事 各々・・・ 宮本百合子 「一九二九年一月――二月」
・・・然し、今日の我々から見ると、彼自身も亦、彼の書いた英雄共と種々な角度に於て交渉を持った一公民としての、心情を吐露して居る。 家を引越し、もう少し周囲の高級な、部屋ももう一つ位多い処へ行きたい希望がある。然し、目下の所、いつ其が実現さ・・・ 宮本百合子 「小さき家の生活」
出典:青空文庫