・・・そうして、これは喜劇ではなく、女の生涯は、そのときの髪のかたち、着物の柄、眠むたさ、または些細のからだの調子などで、どしどし決定されてしまうので、あんまり眠むたいばかりに、背中のうるさい子供をひねり殺した子守女さえ在ったし、ことに、こんな吹・・・ 太宰治 「皮膚と心」
・・・そしてドイツ自身も第一にチリ硝石の供給が断えて困るのを、空気の中の窒素を採って来てどしどし火薬を作り出したあざやかな手ぎわをも思い出した。 そして、どうしてもやはり、家庭でも国民でも「自分のうちの井戸」がなくては安心ができないという結論・・・ 寺田寅彦 「断水の日」
・・・夜は末広亭へ雨がどしどし降るのに出かける。かなり大きな薄暗い小屋に二三人しか客が見えない。語る人も聞く人もさびしい。帰りはまたそばやで酒を飲んだ。」 心のさびしさが不養生をさせ、その結果がさびしさを増していたのである。 四十三年一月・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・「じゃ、もっと早くどしどしかたづけるが好いじゃないか、いつまでたってもぐずぐずで、はたから見ると、いかにも煮え切らないよ」 重吉は小さな声でそうかなと言って、しばらく休んでいたが、やがて元の調子に戻って、こう聞いた。「だってもら・・・ 夏目漱石 「手紙」
・・・「だから、どしどし豆腐屋にしてしまうさ」「その内、してやろうと思ってるのさ」「思ってるだけじゃ剣呑なものだ」「なあに年が年中思っていりゃ、どうにかなるもんだ」「随分気が長いね。もっとも僕の知ったものにね。虎列拉になるなる・・・ 夏目漱石 「二百十日」
・・・しかるにその物が少しでもこの恋を妨げる者であったならば家であろうが木であろうが人であろうが片端からどしどし打毀して行くより外はない。この恋が成功さえすれば天地が粉微塵コッパイになっても少しも驚きはせぬ。もしまたこの恋がどうしても成功せぬとき・・・ 正岡子規 「恋」
・・・実に勇ましいヨ。どしどし遣らなくっちゃいかんヨ。」「君はどの汽車に乗るのだ。」「僕は二時半の東海道線だが、尤も本所へも寄って行きたいのだが、本所はずれまで人力で往復しては日が暮れてしまうからネ。」「本所へ行くなら高架鉄道に乗ればよい。」「そ・・・ 正岡子規 「初夢」
・・・早くも門があいていて、グララアガア、グララアガア、象がどしどしなだれ込む。「牢はどこだ。」みんなは小屋に押し寄せる。丸太なんぞは、マッチのようにへし折られ、あの白象は大へん瘠せて小屋を出た。「まあ、よかったねやせたねえ。」みんなはし・・・ 宮沢賢治 「オツベルと象」
・・・さあ、次だ、次だ、出るんだよ。どしどし出るんだ。」 ところがみんなは、もうしんとしてしまって、ひとりもでるものがありませんでした。「これはいかん。でろ、でろ、みんなでないといかん。でろ。」画かきはどなりましたが、もうどうしても誰も出・・・ 宮沢賢治 「かしわばやしの夜」
・・・ けれどもジョバンニは手を大きく振ってどしどし学校の門を出て来ました。すると町の家々ではこんやの銀河の祭りにいちいの葉の玉をつるしたりひのきの枝にあかりをつけたりいろいろ仕度をしているのでした。 家へは帰らずジョバンニが町を三つ曲っ・・・ 宮沢賢治 「銀河鉄道の夜」
出典:青空文庫