・・・ ワーシカは、夜が短い白夜を警戒した。涼しかった。黒竜江の濁った流れを見ながら、大またに、のしのしと行ったりきたりするのは、いい気持のものだ。 八月に入って、密輸入者はどうしたのか、ふッと一人も発見されなくなった。「しかし、これで油・・・ 黒島伝治 「国境」
・・・村山知義氏の「白夜」その他代表的な作品があった。転向文学という独特な通称がおこったほど、当時は過去を描いた作品がプロレタリア作家によって発表されたのであったが、その一貫した特徴は、文化運動を通じての活動によって法律の制裁をも受けた当事者たち・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・この雰囲気は、村山知義の「白夜」によって先頭をきられた一系列の作家の作品の出現によって愈々暗鬱なものとなった。転向文学という一時的な概括で云われたこれらの作品の特徴は、知識人としての作者たちが時代の中に経た生活と思想経験の歴史的な価値と意味・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・村山知義の「白夜」その他、運動と個性の分裂をモメントとして権力に屈したインテリゲンチャの告白がいくつもの小説となってあらわれた。治安維持法そのものの非人道性をとりあげた作品はなかった。これはどういう形で日本のインテリゲンチャ及び勤労者が、そ・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・かつて「白夜」を書いたこの作者は「思想関係の事件で起訴されたり投獄されたりの間の、自分の意志でどうともならなかった心の動きの秘密を知りたいという慾求」から「自分の血統に傾ける心」を持って「自分の一族」の経歴を溯っている。作者は、自身の蹉跌や・・・ 宮本百合子 「ヒューマニズムへの道」
・・・「白夜」は、作者が客観的情勢の否定的暗さとともに自身の暗さを摘出しようと試みた点で、ある評価をうけた。それゆえ、「再出発」についての文章の中でも、村山は知ってか知らずか、特に自身の曝露ということを強く云っているらしく思われるけれども、個・・・ 宮本百合子 「冬を越す蕾」
・・・や「白夜」と同じ類型に属するものとすれば、それは、杜撰であろうと私は考える。 主人公の持つ方向と、作者の意企とは、それらの作品とむしろ対蹠的なものである。然し作品として見れば失敗の部に属すものとなっている要因を、その社会的根源にまで遡っ・・・ 宮本百合子 「文学における古いもの・新しいもの」
・・・ 五月下旬になるとモスクワでもいくらか白夜がはじまって来る。夜の十二時ごろでもすっかりは暮れきれず、日本の夏の七八時ごろの薄明りが夜中ずっとのこっている。日本の宵には空にうすら明るみがただよっていても、樹かげや大地から濃い闇が這いのぼっ・・・ 宮本百合子 「モスクワ」
出典:青空文庫