・・・の間に販路をひろめるために、若い夢をかきたてている。 十代が、ジャーナリズムの新しい開拓地と見られているのではないかということを、わかい女性は案外批判しはじめている。 いわゆる少女向の雑誌や、少女歌劇につながる趣味――少女趣味一般は・・・ 宮本百合子 「若い人たちの意志」
・・・ 悄然として呟く紺背広の技師の一歩前で、これはまた溌剌とした栖方の坂路を降りていく鰐足が、ゆるんだ小田原提灯の巻ゲートル姿で泛んで来る。それから三笠艦を見物して、横須賀の駅で別れるとき、「では、もう僕はお眼にかかれないと思いますから・・・ 横光利一 「微笑」
・・・薄明かりの坂路から怪物のように現われて来る逞しい牛の姿、前景に群がれる小さき雑草、頂上を黄橙色に照らされた土坡、――それらの形象を描くために用いた荒々しい筆使いと暗紫の強い色調とは、果たして「力強い」と呼ばるべきものだろうか。また自然への肉・・・ 和辻哲郎 「院展遠望」
出典:青空文庫