・・・と思うと眼がぱっちりあいた。「憾むらくは眼が小さ過ぎる。」――中佐は微笑を浮べながら、内心大人気ない批評を下した。 舞台では立ち廻りが始まっていた。ピストル強盗は渾名通り、ちゃんとピストルを用意していた。二発、三発、――ピストルは続けさ・・・ 芥川竜之介 「将軍」
・・・僕は眼をぱっちり開いて嬉しくって、思わず臥がえりをうって声のする方に向いた。そこにお母さんがちゃんと着がえをして、頭を綺麗に結って、にこにことして僕を見詰めていらしった。「およろこび、八っちゃんがね、すっかりよくなってよ。夜中にお通じが・・・ 有島武郎 「碁石を呑んだ八っちゃん」
・・・ じゃらんとついて、ぱっちりと目を開いた。が、わが信也氏を熟と見ると、「おや、先生じゃありませんか、まあ、先生。」「…………」「それ……と、たしか松村さん。」 心当りはまるでない。「松村です、松村は確かだけれど、あや・・・ 泉鏡花 「開扉一妖帖」
・・・ 夫人はここにおいてぱっちりと眼をけり。気もたしかになりけん、声は凛として、「刀を取る先生は、高峰様だろうね!」「はい、外科科長です。いくら高峰様でも痛くなくお切り申すことはできません」「いいよ、痛かあないよ」「夫人、あ・・・ 泉鏡花 「外科室」
・・・若いぱっちりとした目は、爺などより明かじゃ。よう探いてもらわっしゃい。」「これはお隙づいえ、失礼しました。」「いや、何の嵩高な……」「御免。」「静にござれい。――よう遊べ。」「どうかしたか、――姉さん、どうした。」「・・・ 泉鏡花 「小春の狐」
・・・細面で、目は、ぱっちりと、大きくないが張があって、そして眉が優しい。緊った口許が、莞爾する時ちょっとうけ口のようになって、その清い唇の左へ軽く上るのが、笑顔ながら凜とする。総てが薄手で、あり余る髪の厚ぼったく見えないのは、癖がなく、細く、な・・・ 泉鏡花 「燈明之巻」
・・・ そして、ぱっちりした、霑のある、涼しい目を、心持俯目ながら、大きくみひらいて、こっちに立った一帆の顔を、向うから熟と見た。 見た、と思うと、今立った旧の席が、それなり空いていたらしい。そこへ入って、ごたごたした乗客の中へ島田が隠れ・・・ 泉鏡花 「妖術」
・・・ すると、りこうそうな、目のぱっちりした小田は、吉雄を慰めるように、「君、もう飲んでしまったらしかたがない。そして、いま時分は、お湯は、こんなに寒いんだもの、水になっているよ。帰ってもしかたがないだろう。」といいました。 吉雄は・・・ 小川未明 「ある日の先生と子供」
・・・しかし、目は、ぱっちりとして、黒く大きかったのでした。 兄さんは、ポケットから、りゅうのひげの実を出して妹にやると、「まあ。」といって、顔を上げて、喜びました。正吉くんは、なんとなく、この兄妹の仲のいいのがうらやましくなって、自分も・・・ 小川未明 「少年と秋の日」
おそろしいがけの中ほどの岩かげに、とこなつの花がぱっちりと、かわいらしい瞳のように咲きはじめました。 花は、はじめてあたりを見て驚いたのであります。なぜなら、目の前には、大海原が開けていて、すぐはるか下には、波が、打ち寄せて、白く・・・ 小川未明 「小さな赤い花」
出典:青空文庫