・・・人民生活の収奪のひどさに苦しむ一般の感情に乗じて、きょうの日本のファシストは左からぐるっと右へまわった愛国主義の鼓舞、民族主義、内閣打倒を思っている。 丹羽文雄氏は、作家として戦争に反対する立場を社会に向って明らかにした。したがって作家・・・ 宮本百合子 「作家は戦争挑発とたたかう」
・・・ 大抵一昼夜経てば天候は変るのに、その雨は三十日になってもやまず、一日同じひどさ、同じ沛然さで、天から降り落ちた。雨の音がひどいので、自分の入って居る家以外皆家も人も存在を消されたように感じた。床についてから、洗い流すような水の音、二階・・・ 宮本百合子 「一九二五年より一九二七年一月まで」
・・・一九三〇年の上演目録はひどく変ったよ。三年前とくらべると。 ――……。社会的生活と芸術とががっちり歩調を合わせて、進もうとしているわけだな。 ――だからね、例えば一九三〇年の春は愉快な美しい光景があったよ。春だ。キラキラ日が照りだし・・・ 宮本百合子 「ソヴェトの芝居」
・・・にはまりこんでいて、わたしたちにほしい科学的な性の知識や人生の設計としての愛情の問題からは遠くずれおちた絵そらごとやきたならしい猥談で、少女たちの好奇心までを餌じきにしているところを見ると、実に日本のひどさが思われる。封建的であればあったで・・・ 宮本百合子 「人間イヴの誕生」
・・・ 文学の世界では、戦争中にうけた損傷のひどさが大規模にあらわれていて、誰の目にも被いがたく見えている。民主日本となろうとする暁方の鳥の声のような作品はまだ出ない。そんなにすべての若い才能の芽がつみとられ、剛健な中年の成熟が歪められ、・・・ 宮本百合子 「俳優生活について」
・・・婦人たちが、そんなに急に、自分たちの生活のひどさの理由を発見し、そんなに急に自覚して来たというわけなのだろうか。 私たちは、自分たちの幸福のために今度の総選挙の結果を落ちついて吟味して見なければならないと考える。 第一、今度の総選挙・・・ 宮本百合子 「春遠し」
・・・――巣鴨のおしまい頃はひどかったなあ……これっぽっちの飯なんだから。二くち三くちで、もう終りさ」 重吉は網走で、独居囚の労役として、和裁工であった。囚人たちが使ってぼろになったチョッキ、足袋、作業用手套を糸と針とで修繕する仕事であった。・・・ 宮本百合子 「風知草」
・・・ 然し、いよいよその積りで家を見付けにかかると、少くとも母上は、ひどく淋しそうに見えた。不自由で困るだろう、元のようにそう小林さんをやるわけにも行かないから。私の方は一向構わないがね、などと云われる。 彼女の心持は両端とも感じられた・・・ 宮本百合子 「又、家」
・・・何年か前あの女をひどい目に遭わせて追放した。その怨みを今日晴らしたんだ」非常に落胆して、すごすご武器を引きずって森の奥へ退いて行った。 これは中世の騎士伝説の中で圧巻的なエピソードだと思う。騎士達は礼儀正しく貴婦人達の前に跪き、その・・・ 宮本百合子 「私たちの建設」
・・・うん、ひどい目にあった。」と彼から云った。 秋三は自分の子供時代に見た村相撲の場景を真先に思い浮かべた。それは、負けても賞金の貰える勝負に限って、すがめの男が幾度となく相手関わず飛び出して忽ち誰にも棹のように倒されながら、なお真面目にま・・・ 横光利一 「南北」
出典:青空文庫