・・・ 茲に今林氏の好意に酬い、且その後の研究を述べて、儒家諸賢の批判を請はんと欲す。而して林氏の説に序を逐うて答ふるも、一法なるべけれど、堯舜禹の事蹟に關する大體論を敍し、支那古傳説を批判せば、林氏に答ふるに於いて敢へて敬意を失することなか・・・ 白鳥庫吉 「『尚書』の高等批評」
・・・ 世のおとなたちは、織田君の死に就いて、自重が足りなかったとか何とか、したり顔の批判を与えるかも知れないが、そんな恥知らずの事はもう言うな! きのう読んだ辰野氏のセナンクウルの紹介文の中に、次のようなセナンクウルの言葉が録されてあっ・・・ 太宰治 「織田君の死」
・・・はっきり、あなたという男を、遠くから批判出来ました。あなたは、ただのお人です。これからも、ずんずん、うまく、出世をなさるでしょう。くだらない。「私の、こんにち在るは」というお言葉を聞いて、私は、スイッチを切りました。一体、何になったお積りな・・・ 太宰治 「きりぎりす」
・・・中に物理学者と名のつく人も一人居て、これはさすがに直接の人身攻撃はやらないで相対原理の批判のような事を述べたが、それはほとんど科学的には無価値なものであった。要するにこの演説会は純粋な悪感情の表現に終ってしまった。気の永いアインシュタインも・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
・・・純粋理性批判は産めないが、カントを産む事が出来る」と云っている。 話頭は転じて、いわゆる「天才教育」の問題にはいる。特別の天賦あるものを選んで特別に教育するという事は、原理としては多数の承認するところで問題は程度如何にある。これは元来ダ・・・ 寺田寅彦 「アインシュタインの教育観」
・・・わたくし達は、又日々社会の新事物に接する毎に絶間なく之に対する批判の論を耳にしている。今の世は政治学芸のことに留らず日常坐臥の事まで一として鑑別批判の労をからなくてはならない。之がため鑑賞玩味の興に我を忘るる機会がない。平生わたくし達は心窃・・・ 永井荷風 「百花園」
・・・しかし今は時勢に鑑みまた自分の衰老を省みて、今なおわたくしの旧著を精読して批判の労を厭わない人があるかと思えば満腔唯感謝の情を覚ゆるばかりである。知らぬ他国で偶然同郷の人に邂逅したような心持がしたのである。 かつて大正十五年の春にも正宗・・・ 永井荷風 「正宗谷崎両氏の批評に答う」
・・・従って小説戯曲の材料は七分まで、徳義的批判に訴えて取捨選択せられるのであります。恋を描くにローマン主義の場合では途中で、単に顔を合せたばかりで直ぐに恋情が成立ち、このために盲目になったり、跛足になったりして、煩悶懊悩するというようなことにな・・・ 夏目漱石 「教育と文芸」
・・・文学上の述作を批判するにあたって批判すべき条項を明かに備えねばならぬ。あたかも中学及び高等学校の規定が何と何と、これこれとを修め得ざるものは学生にあらずと宣告するがごとくせねばならん。この条項を備えたる評家はこの条項中のあるものについて百よ・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
・・・矛盾的自己同一的なる、現実の自己の自覚の立場、即ち絶対否定的自覚の立場に返って、デカルト哲学が批判せられなければならぬとともに、フィヒテ哲学も批判せられなければならない。否、カントの批判哲学そのものも批判せられなければならない。カントの批判・・・ 西田幾多郎 「デカルト哲学について」
出典:青空文庫