・・・ 向うの青々した山の裾まで、かるく、ゆれて、ホンノリとして見えるので、まるで初春の雲雀でも鳴いて居る時の様に思われる。 まだ三※日がすまないので、漁船は皆浜に上って居て、胴の間に船じるしの「のぼり」と松が立ててあるその下で、「あさぎ・・・ 宮本百合子 「冬の海」
・・・うたう雲雀、可愛いい人形から、急に一人の女に転生しようとしたノラの前途に、ふせられていたこの課題は、きょうの日本の勤労女性全般の前に、ノラの時代より、遙かに具体的に矛盾の諸相を呈出している。 結婚の問題にあたって、私たちを深刻に考えこま・・・ 宮本百合子 「離婚について」
・・・ただ暖かい野の朝、雲雀が飛び立って鳴くように、冷たい草叢の夕、こおろぎが忍びやかに鳴く様に、ここへ来てハルロオと呼ぶのである。しかし木精の答えてくれるのが嬉しい。木精に答えて貰うために呼ぶのではない。呼べば答えるのが当り前である。日の明るく・・・ 森鴎外 「木精」
出典:青空文庫