・・・ 実際の場合として、産め、殖やせという標語をそれだけの範囲でうけて、互に結婚して、偶然にも子供のもてない良人の体質であったとき、その女性はどうするのだろう。産み、殖す。それを目的として結婚したのに、その中心が失われたとすれば、もうその結・・・ 宮本百合子 「結婚論の性格」
・・・ 同時に、一九二八年から九年にかけての、このロシア・プロレタリア作家連盟の標語、大衆の中へ! は、非常に大きい歴史的背景の前にあった。 この一九二九年こそ、ソヴェト同盟に生産拡張の五ヵ年計画が実行されはじめた年であった。その第一年目・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・と、記者たち自身にとってもけげんであろうような標語が示された。日配の解体、再編成は、集中排除法という経済面から強行されて、三ヵ月以上にわたった出版界の経済封鎖の過程では、大出版企業者をのぞく、すべての出版事業がいちじるしい危機にさらされた。・・・ 宮本百合子 「五〇年代の文学とそこにある問題」
・・・人生と文学とにおける高邁な精神という標語である。「高邁なる精神」は横光利一氏とその作品「紋章」をとり囲む一帯から生じた。高邁にして自由な精神とは「自分の感情と思想とを独立させて冷然と眺めることの出来る闊達自在な精神」であるとして横光氏によっ・・・ 宮本百合子 「今日の文学の展望」
・・・という制度の下におかれていた。森鴎外の「阿部一族」の悲劇が、殉死のいきさつをめぐっての武士間の生存闘争であることに、二重の悲劇の意味がふくまれるのである。 最近十数年間、日本人は「滅私」という標語で統一しようとされて来た。近代社会の必然・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・民主化という標語をかかげて、策動しているものは潜伏的なファシストや、侵略戦争に協力した脱落社会主義者たちであることについて知らないひとはなくなっている。 またさきごろは、戦争に最も反対した民主主義者を新しい軍国主義者であるといった言説が・・・ 宮本百合子 「三年たった今日」
・・・然し、此の一群の人々は、此の標語を振りかざして、単に常套に堕した現状維持につくから、私はよろこぶ事が出来ません。白熱した純一な動機から、無意味な、価値の怪しむべき常套を破る丈の心力が乏しい、その魂の無力を、率直に謙虚に承認し得ない虚栄心から・・・ 宮本百合子 「C先生への手紙」
新聞週間がはじまって、しばらくしたら「新聞のゆくところ自由あり」という標語があらわれた。これには英語で Where news paper goes, there is freedom. と書き添えられていた。新聞のゆくとこ・・・ 宮本百合子 「ジャーナリズムの航路」
・・・等の標語は悉く、以上のような当時の文学精神によったものであった。「新興芸術派」時代「主知的文学論」をもって立った阿部知二の「知性」の本質も根本に於てはやはり横光利一の「高邁なる精神」と同様に、現実的な人間像への芸術的肉迫を回避して、自我・・・ 宮本百合子 「昭和の十四年間」
・・・というような標語をその文字の意味で理解するようになったというのが、婦人の政治的成長というのは、あまり、安易な解釈と自己弁護であろう。 成長をうながす一つの方法として、一部では隣組に主婦会をおいて、主婦というものを一つの職能として上部の組・・・ 宮本百合子 「女性の歴史の七十四年」
出典:青空文庫