・・・は、イエス・クリストに非礼を行ったために、永久に地上をさまよわなければならない運命を背負わせられた。が、クリストが十字架にかけられた時に、彼を窘めたものは、独りこの猶太人ばかりではない。あるものは、彼に荊棘の冠を頂かせた。あるものは、彼に紫・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・の段階に比例して、下級のものから取り扱っていった。最低位に「継母」があり、「鬼女」「淫女」等がこれに次ぎ、「淑女」「貴婦人」「童女」「天女」等とさかのぼり、最高の段階に聖母が位した。そして種々の聖母像の中で、どの聖母が最も美しいかを定めよう・・・ 倉田百三 「女性の諸問題」
・・・大金といったって、十円の蝦蟇口から一円出すのはその人に取って大金だが、千万円の弗箱から一万円出したって五万円出したって、比例をして見ればその人に取って実は大金ではない、些少の喜悦税、高慢税というべきものだ。そしてその高慢税は所得税などと違っ・・・ 幸田露伴 「骨董」
・・・もし、間違っていたら、ごめんなさい、と大いに非礼を謝して、それでも、やはりその画を、お目に掛けずには、居られなかった。そうして、「十一月二日の夜、六時ごろ、やはり青森県出身の旧友が二人、拙宅へ、来る筈ですから、どうか、その夜は、おいで下さい・・・ 太宰治 「酒ぎらい」
・・・ろぼうに絡みついているわけは、どろぼうは、何も言わず、のこのこ机の傍にやって来て、ひき出しをあけて、中をかき廻し、私の精一ぱいのいやがらせをも、てんで相手にせず、私は、そのどろぼうの牛豚のような黙殺の非礼の態度が、どうにも、いまいましく、口・・・ 太宰治 「春の盗賊」
・・・ 柿右衛門の非礼は、ゆるさるべきであろう。藤村の口真似をするならば、「芸術の道は、しかく難い。若き人よ。これを畏れて畏れすぎることはない。」 立派ということに就いて もう、小説以外の文章は、なんにも書くまいと覚悟・・・ 太宰治 「碧眼托鉢」
・・・次におもしろいと思ったのは、舞台面の仮想的の床がずっと高くなり、天井がずっと低くなって天地が圧縮され、従って縮小された道具とその前に動く人形との尺度の比例がちょうど適当な比例になっているために、人形のほうが現実性を帯びるとともに人形使いのほ・・・ 寺田寅彦 「生ける人形」
・・・まず第一に速度であるがこれは時間に逆比例する。運動量も同様である。しかし加速度となると時間の自乗に逆比例するから時間のほうが二倍に延びれば加速度は四分の一になる。それで、たとえば煙突の崩壊する光景の映画を半分の速度で映写すると、それは地球の・・・ 寺田寅彦 「映画の世界像」
・・・人間の能力がこれに比例して増進しない限りは、十人並の人間一生の間に物理学の全般にわたって一通りの知識だけでも得ようとするのはなかなか容易な事でなくなる。もし全般に通じようとすれば勢い浅薄に流れ、もし蘊奥を極めんとすれば勢い全般の事は分らずに・・・ 寺田寅彦 「科学上における権威の価値と弊害」
・・・その人間の廻転する円の半径がだんだん小さくなるに従って、鳥から見たそれの角速度は半径と逆比例して急激に増大して来るのであるから、鳥の注意と緊張もそれに応じて急激にしかし連続的加速度的に増大を要求されるであろう。そういう、鳥にとってはおそらく・・・ 寺田寅彦 「鴫突き」
出典:青空文庫