・・・実に驚くべき比例である。これにはいろいろの理由があるであろうが、要するに時の試練を経ない造営物が今度の試験でみごとに落第したと見ることはできるであろう。 小学校建築には政党政治の宿弊に根を引いた不正な施工がつきまとっているというゴシップ・・・ 寺田寅彦 「天災と国防」
・・・そうすると一つの電車が収容すべき人数は、平均上、すぐ前の電車甲がそこを発車してからの経過時間に比例するものと考えてもいい。それでもし甲の電車が平均よりaだけ早く出た後に来た乙電車がbだけおそく発車すると、乙電車は平均よりも n(a+b) だ・・・ 寺田寅彦 「電車の混雑について」
・・・それに比例して子供らの興味も増して行った。夕食のあとなどには庭のあちらこちらに伏兵のようにかくれていて、うっかり出て来る子猫を追い回してつかまえようとしていたが、もうおとなにでもつかまりそうでなかった。あまりに募る迫害に恐れたのか、それとも・・・ 寺田寅彦 「ねずみと猫」
・・・その質量の大小は同じ力の働いた時の加速度に比例すると考えるのである。否むしろかくのごとき方則に従って力に反応する物を物質と名づけるのである。こういう考えで自然界の運動を解釈して矛盾するところがないので、力の考えはいよいよ明らかとなり質量の考・・・ 寺田寅彦 「物質とエネルギー」
・・・もしも重力が距離の自乗に反比例せずして距離自身に比例するのであったら結果は収斂しないのである。 もし物質間の引力が距離によらず同一であったり、あるいは距離の大なるほど大であったと仮定したら、天地万物の運動はすべて人間には端倪する事の出来・・・ 寺田寅彦 「方則について」
・・・科学者がその方則を述べる字句の巧拙や運算の器用不器用は必ずしもその方則の価値と比例しないのと一般であろう。 むしろあまりに悪達者な漫画家の技巧がその内容と反比例を示す場合も少なくないように見える。それは技巧が跳躍して科学的真の圏外に逸出・・・ 寺田寅彦 「漫画と科学」
・・・自分のさし延べている手をそのままの位置に保とうという意識に随伴して一種の緊張した感じが起こると同時にこれに比例して、からだのどこかに妙なくすぐったいようなたよりないような感覚が起こって、それがだんだんからだじゅうを彷徨し始めるのである、言わ・・・ 寺田寅彦 「笑い」
・・・吹聴の程度が木村氏の偉さと比例するとしても、木村氏と他の学者とを合せて、一様に坑中に葬り去った一カ月前の無知なる公平は、全然破れてしまった訳になる。一旦木村博士を賞揚するならば、木村博士の功績に応じて、他の学者もまた適当の名誉を荷うのが正当・・・ 夏目漱石 「学者と名誉」
・・・ちょうど小学校の生徒が学問の競争で苦しいのと、大学の学生が学問の競争で苦しいのと、その程度は違うが、比例に至っては同じことであるごとく、昔の人間と今の人間がどのくらい幸福の程度において違っているかと云えば――あるいは不幸の程度において違って・・・ 夏目漱石 「現代日本の開化」
・・・換言すれば彼の戯曲のあるものは齣幕の組織において明かに比例を失している。だから比例だけを眼中に置いてマーチャント・オブ・ヴェニスを読むものは必ず失敗の作だと云うだろう。マーチャント・オブ・ヴェニスはこの点から読むべきものでないと云う事がわか・・・ 夏目漱石 「作物の批評」
出典:青空文庫