・・・と題して、船場娘の美人投票を募集するなど、変なことを考えついたのも、おれだった。これは随分当って、新聞は飛ぶように売れ、有料広告主もだんだん増えた。 もっとも、こう言ったからとて、べつだん恩に着せようというのではない。それに、もともとこ・・・ 織田作之助 「勧善懲悪」
・・・評判の美人である。彼女は前庭の日なたで繭をにながら、実際グレートヘンのように糸繰車を廻していることがある。そうかと思うと小舎ほどもある枯萱を「背負枠」で背負って山から帰って来ることもある。夜になると弟を連れて温泉へやって来る。すこやかな裸体・・・ 梶井基次郎 「温泉」
・・・厖大なものの気配が見るうちに裏返って微塵ほどになる。確かどこかで触ったことのあるような、口へ含んだことのあるような運動である。廻転機のように絶えず廻っているようで、寝ている自分の足の先あたりを想像すれば、途方もなく遠方にあるような気持にすぐ・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・――美人の宙釣り。力業。オペレット。浅草気分。美人胴切り。 そんなプログラムで、晩く家へ帰った。 病気 姉が病気になった。脾腹が痛む、そして高い熱が出る。峻は腸チブスではないかと思った。枕・・・ 梶井基次郎 「城のある町にて」
・・・その少女はなかなかの美人でした」「ヨウ! ヨウ!」と松木は躍上らんばかりに喜こんだ。「どちらかと言えば丸顔の色のくっきり白い、肩つきの按排は西洋婦人のように肉附が佳くってしかもなだらかで、眼は少し眠むいような風の、パチリとはしないが・・・ 国木田独歩 「牛肉と馬鈴薯」
・・・ 猶お友の語るところに依れば、お露は美人ならねどもその眼に人を動かす力あふれ、小柄なれども強健なる体格を具え、島の若者多くは心ひそかにこれを得んものと互に争いいたるを、一度大河に少女の心移や、皆大河のためにこれを祝して敢て嫉もの無かりし・・・ 国木田独歩 「酒中日記」
・・・此の娑婆世界にして雉となりし時は鷹につかまれ、鼠となりし時は猫にくらわれ、或いは妻子に、敵に身を捨て、所領に命を失いし事大地微塵よりも多し。法華経の為には一度も失う事なし。されば日蓮貧道の身と生まれて、父母の孝養心に足らず、国恩を報ずべき力・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・だから反言や、風刺や、暴露の微塵もないこの作が甘く見えるのはもっともである。 人間が読んで、殊に若い人たちが読んでいつまでも悪いことはない、きっとその心を素純にし、うるおわせ、まっすぐにものを追い求める感情を感染させるであろうと今でも私・・・ 倉田百三 「『出家とその弟子』の追憶」
・・・「停車場で君がバルシニャと話しているのをきいたことがあるよ――美人だったじゃないか。」「あの女は、何でもない女ですよ。何も関係ありゃしないんです。」彼は、リザ・リーブスカヤのことを思い出して、どぎまぎして「胸膜炎で施療に来て居るから・・・ 黒島伝治 「穴」
・・・には、なおそれ以上、微塵もその反映は見られない。「肉弾」は熱烈な愛国主義に貫かれている。 愛国主義は、それ自身決して不自然な感情でもないし、浅薄なものでもない。それは、「幾世紀も幾千年にも亘る祖国の存在によって固められた最も深い感情の一・・・ 黒島伝治 「明治の戦争文学」
出典:青空文庫