・・・ ここで、面白く思われるのは、自由民権が唱えられた時代からのより社会的性質のつよい文筆家たちは「経国美談」の作者の矢野龍溪にしろ中江兆民にしろ、主として新聞人として活躍していることである。作者紅葉とは編輯者対寄稿家という現代の関係が既に・・・ 宮本百合子 「文学における今日の日本的なるもの」
・・・軽くあしらっていると、それがかねがね清少納言の讚嘆をあつめていて地位も名声も高い美男の殿上人であったので清少納言は少からずうろたえる。その殿上人は、女の人は寝起きの顔がことの外美しいと聞いていたから見に来たのですよ。帝がいらしたうちからここ・・・ 宮本百合子 「山の彼方は」
・・・伊織は武芸が出来、学問の嗜もあって、色の白い美男である。只この人には肝癪持と云う病があるだけである。さて二人が夫婦になったところが、るんはひどく夫を好いて、手に据えるように大切にし、七十八歳になる夫の祖母にも、血を分けたものも及ばぬ程やさし・・・ 森鴎外 「じいさんばあさん」
・・・そっくりの美男になって、今文尚書二十九篇で天下を治めようと言った才子の棟蔵である。惜しいことには、二十二になった年の夏、暴瀉で亡くなった。 中一年おいて、仲平夫婦は一時上邸の長屋に入っていて、番町袖振坂に転居した。その冬お佐代さんが三十・・・ 森鴎外 「安井夫人」
出典:青空文庫