・・・気の利いたような、そして同時に勇往果敢な、不屈不撓なような顔附をして、冷然と美しい娘や職工共を見ている。へん。お前達の前にすわっている己様を誰だと思う。この間町じゅうで大評判をした、あの禽獣のような悪行を働いた罪人が、きょう法律の宣告に依っ・・・ 著:アルチバシェッフミハイル・ペトローヴィチ 訳:森鴎外 「罪人」
・・・表面は円転滑脱の八方美人らしく見えて、その実椿岳は容易に人に下るを好まない傲岸不屈の利かん坊であった。十 椿岳の畸行作さんの家内太夫入門・東京で初めてのピヤノ弾奏者・椿岳名誉の琵琶・山門生活とお堂守・浅草の畸人の一群・椿・・・ 内田魯庵 「淡島椿岳」
・・・この望みはかれが不屈の性と天稟の才とをもってしては達し難きものにあらず。かれはこれを自信せり。一年の独居はいよいよこの自信を強め、恋の苦しみと悲しみとはこの自信と戦い、かれはついに治子を捨て、この天職に自個を捧ぐべしと自ら誓いき。後の五月は・・・ 国木田独歩 「わかれ」
・・・彼の本領の宣言書である。彼の不屈の精神はこの磽こうかくの荒野にあっても、なお法華経の行者、祖国の護持者としての使命とほこりとを失わなかった。 佐渡の配所にあること二年半にして、文永十一年三月日蓮は許されて鎌倉に帰った。しかるに翌四月八日・・・ 倉田百三 「学生と先哲」
・・・ わたしたちは生きたいんです、つよく、たのしく、不屈に生きたいんです。きっと、そうしか答える言葉をもっていられないと信じます。 若いかたがたの心もちに立ってみれば、そうしか思えないのが本当です。でも、その真直な人生への希望を実現してゆく・・・ 宮本百合子 「新しい卒業生の皆さんへ」
・・・それは、一人一人のひとが、自分のまともに生きようとする願望について不屈であることである。過去の文学談では、こういう問題は、文学以前のことという風に扱われる習慣があった。いまでも、そういう流儀はのこっている。しかし、それは間違っている。 ・・・ 宮本百合子 「新しい文学の誕生」
・・・ 五 不屈な闘志――ロンドン時代―― 身重なイエニーは肉体と精神との苦痛をこらえてロンドンにたどり着いた。三人の子供を連れて。そして、宝石のようなレンシェンをつれて。愛称をレンシェンとよばれたヘレーネ・デムート・・・ 宮本百合子 「カール・マルクスとその夫人」
・・・街の老若男女が、強硬不屈に、去年よりは十倍と新聞に報じられている所得税の誅求に対してたたかっている。 世論調査には、莫大な費用がかかる。人手もいる。そのために、その費用の支出にたえ調査機関としての人手をもち、同時にその世論調査そのものが・・・ 宮本百合子 「現代史の蝶つがい」
・・・ 革命的なプロレタリアートの不屈な意志と細心な努力とが日常生活の実際を貫いて、意識のおくれた勤労者たちの階級的行動に日光が植物に作用するような影響を与えている。 五ヵ年計画実現の或る政策、特に集団農場化のような場合、はじめはグズグズ・・・ 宮本百合子 「五ヵ年計画とソヴェトの芸術」
・・・生のために不屈にたたかう能力を小柄な全身にみなぎらしている著者は、その体のたけとはばとで解決しきれないような問題は、みんなきってすてている。したがって、この引あげの辛酸な事実の歴史的背景となり悲惨の原因となっている日本の軍国主義や満州侵略、・・・ 宮本百合子 「ことの真実」
出典:青空文庫