・・・こぶしを血にして、たたけ、五百度たたきて門の内こたえなければ、千度たたかむ、千度たたきて門、ひらかざれば、すなわち、門をよじのぼらむ、足すべらせて落ちて、死なば、われら、きみの名を千人の者に、まことに不変の敬愛もちて千語ずつ語らむ。きみの花・・・ 太宰治 「HUMAN LOST」
・・・これだけが絶対不変な「純粋の数」である。素量説なるものは取りも直さずこの作用に一定の単位があるという宣言に過ぎない。この「純数」がおそらくある出来事の「確率」と結び付けられるものであろうと云っている。これに対するアインシュタインの考えは不幸・・・ 寺田寅彦 「アインシュタイン」
歌の口調がいいとか悪いとかいう事の標準が普遍的に定め得られるものかどうか、これは六かしい問題である。この標準は時により人により随分まちまちであってその中から何等かの方則といったようなものを抽き出すのは容易な事とは思われない・・・ 寺田寅彦 「歌の口調」
・・・ それで映画や連句のモンタージュが普遍的な効果を収めうるためには、作者が示そうとする「通路」が国道であり県道であることが必要である。そうでないときは作者の一人合点に陥って一般鑑賞者の理解を得ることは困難である。 映画と夢・・・ 寺田寅彦 「映画芸術」
・・・この映画を見ながら、英雄崇拝は結局永久普遍に不可避的な人間界の事実だというような気がした。われわれが見るとムッソリニが閲兵式に臨んでいるニュース映画もこれと全く同格な現象のニュースとして実におもしろく見られるのである。 ・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・ただ普遍な適用性をもつ力学が無意識に合目的に応用されているだけであろうと思われる。「自然の設計」に機械的原理の応用されている一例としておもしろい見ものである。 ガラガラ蛇が横ばいをするのも奇妙である。普通の蛇ではこんな芸当はできないので・・・ 寺田寅彦 「映画雑感(3[#「3」はローマ数字、1-13-23])」
・・・すなわち芸術に対する感受性は必ずしも各人に普遍的なものではないから、ヴィエイが感得しないある物をケラーが感じるという可能性は残っている。 ヘレン・ケラーは生後十八ヶ月目に重い病のために彼女の魂と外界との交通に最も大切な二つの窓を釘付けさ・・・ 寺田寅彦 「鸚鵡のイズム」
・・・物理化学の諸般の方則はもちろん、生物現象中に発見される調和的普遍的の事実にも、単に理性の満足以外に吾人の美感を刺激する事は少なくない。ニュートンが一見捕捉しがたいような天体の運動も簡単な重力の方則によって整然たる系統の下に一括される事を知っ・・・ 寺田寅彦 「科学者と芸術家」
・・・それを読む読者は、彼女の中に不変なエネルギーのようなあるものが、環境に応じて種々ちがった相を現わし、それが彼女の運命を導いていることを悟るであろう。 このようにして、作者は、ある特殊な人間を試験管に入れて、これに特殊な試薬を注ぎ、あるい・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
・・・ こういう現象の可能なのは、畢竟は人間の心の動き、あるいは言葉の運びに、一定普遍の方則、あるいは論理が存在するからである。作者は必ずしもその方則や論理を意識しているわけではないであろうが、少なくもその未知無意識の方則に従って行なわれる一・・・ 寺田寅彦 「科学と文学」
出典:青空文庫