・・・キョトキョト声で、のべつに読みあげた――『ゴーデルヴィルの住人、その他今日の市場に出たる皆の衆、どなたも承知あれ、今朝九時と十時の間にブーズヴィルの街道にて手帳を落とせし者あり、そのうちには金五百フランと商用の書類を入れ置かれたり。拾い・・・ 著:モーパッサン ギ・ド 訳:国木田独歩 「糸くず」
・・・つくりつけの木の腰掛は、「フランケット」二枚敷きても膚を破らんとす。右左に帆木綿のとばりあり、上下にすじがね引きて、それを帳の端の環にとおしてあけたてす。山路になりてよりは、二頭の馬喘ぎ喘ぎ引くに、軌幅極めて狭き車の震ること甚しく、雨さえ降・・・ 森鴎外 「みちの記」
出典:青空文庫