・・・何事かと思って出てみると、国際電報によって昨年度と今年度のノーベル賞金の受賞者の名前の報知が届いた、その一人はアインシュタインで、もう一人はコーペンハーゲンのニールス・ボーアという人だそうだが、このボーアという人はいったいどんな人でどういう・・・ 寺田寅彦 「雑記(1[#「1」はローマ数字、1-13-21])」
・・・見込みのない事がわかって来たから、ここらでまず一段落ついた事にしてしばらく放置してみる事にした。バックに緑色の布のかかった箪笥があって、その上に書物や新聞の雑然と置いてあるのがいかにもうるさくて絵全体を俗悪にしてしまうから、あとからすっかり・・・ 寺田寅彦 「自画像」
・・・わが家の先祖の誰かがどこかでどうかしていたと同じ時刻に、遠い遠い宇宙の片隅に突発した事変の報知が、やっと今の世にこの世界に届くという事である。 しかしそう云えばいったいわれらが「現在」と名づけているものが、ただ永劫な時の道程の上に孤立し・・・ 寺田寅彦 「小さな出来事」
・・・ 櫓ができたら少なくも一年は放置して構造の狂いを充分に落ち着かせてからいよいよ観測にかかる。一点における観測作業に天気がよくても二週間ぐらいはかかる。技師一人技手一人と測量人夫六名ないし十名ぐらいの一行でテント生活をする。場所によっては・・・ 寺田寅彦 「地図をながめて」
・・・ 新聞の記事はその日その日の出来事をできるだけ迅速に報知する事をおもな目的としている。その当然の結果として肝心の正確という事が常に犠牲にされがちである事はだれもよく知るとおりである。しかしこの一事だけでも新聞というものが現代の人心に与え・・・ 寺田寅彦 「一つの思考実験」
・・・眠られぬままにいろいろな事を考えた中にも、N先生が病気重態という報知を受けて見舞いに行った時の事を思い出した。あの時に江戸川の大曲の花屋へ寄って求めたのがやはりベコニアであった。紙で包んだ花鉢をだいじにぶら下げて車にも乗らず早稲田まで持って・・・ 寺田寅彦 「病室の花」
・・・むしろただそのままにもう少し放置して自然の機巧を傍観したほうがよかったように思われて来たのである。簔虫にはどうする事もできないこの蜘蛛にも、また相当の敵があるに相違ない。「昆虫の生活」という書物を読んだ時に、地蜂のあるものが蜘蛛を攻撃して、・・・ 寺田寅彦 「簔虫と蜘蛛」
・・・ 亮の死の報知が伝わった時に、F町の知友たちは並み並みならぬ好意を故人の記念の上に注いでくれた。生前から特別な恩典を与えて心安く療養をさせてくれた学校当局は、さらに最後の光栄を尽くさしてくれた。親しかった人々は追悼会や遺作展覧会を開いて・・・ 寺田寅彦 「亮の追憶」
・・・私はその時、仕事から帰って、湯に行ったり何かしてね、娘どもを相手に飯をすまして、凉んでるてえと、××から忰の死んだ報知が来たというんだ。私アその頃籍が元町の兄貴の内にあったもんだから、そこから然う言って電報が此処へ届く。どうも様子が能く解ら・・・ 徳田秋声 「躯」
・・・誰れかが『報知新聞』の雑報を音読し初めた。 三宅坂の停留場は何の混雑もなく過ぎて、車は瘤だらけに枯れた柳の並木の下をば土手に沿うて走る。往来の右側、いつでも夏らしく繁った老樹の下に、三、四台の荷車が休んでいる。二頭立の箱馬車が電車を追抜・・・ 永井荷風 「深川の唄」
出典:青空文庫