・・・風呂からあがりたてらしく、やせこけた両肩から湯気がほやほやたっていた。僕の顔を見てもさほど驚かずに、「夜爪を切ると死人が出るそうですね。この風呂で誰か死んだのですよ。おおやさん。このごろは私、爪と髪ばかり伸びて。」 にやにやうす笑い・・・ 太宰治 「彼は昔の彼ならず」
・・・日はすでに高く上って、島のここかしこから白い靄がほやほやと立っていた。百匹もの猿は、青空の下でのどかに日向ぼっこして遊んでいた。私は、滝口の傍でじっとうずくまっている彼に声をかけた。「みんな知らないのか。」 彼は私の顔を見ずに下から・・・ 太宰治 「猿ヶ島」
・・・曇っていた日であったが、割にあたたかで、雪道からほやほや湯気が立ち昇っている。 すぐ右手に海が見える。冬の日本海は、どす黒く、どたりどたりと野暮ったく身悶えしている。 海に沿った雪道を、私はゴム長靴で、小川君はきゅっきゅっと鳴る赤皮・・・ 太宰治 「母」
・・・そのとき家々のかまどから立ちのぼる煙は、ほやほやとにぎわっていたとな。あら殊勝の超世の本願や。この子はなんと授かりものじゃ。御大切にしなければ。惣助はそっと起きあがり、腕をのばして隣りの床にひとりで寝ている太郎の掛蒲団をていねいに直してやっ・・・ 太宰治 「ロマネスク」
・・・はだいぶ離れているが、ずっとあとに来る「ほやほや」と「うそうそ」とは五句目に当たる。『そらまめの花』の巻の「すたすた」と「そよそよ」は四句目に当たる。『梅が香』の巻の「ところどころ」と「はらはら」も四句目である。もちろんこれには規約的な条件・・・ 寺田寅彦 「連句雑俎」
・・・それじゃ新米のひとでだ。ほやほやの悪党だ。悪いことをしてここへ来ながら星だなんて鼻にかけるのは海の底でははやらないさ。おいらだって空に居た時は第一等の軍人だぜ。」 ポウセ童子が悲しそうに上を見ました。 もう雨がやんで雲がすっかりなく・・・ 宮沢賢治 「双子の星」
・・・湯気さえほやほやと立っているよ。」 豚はあんまり悲しくて、辛くてよろよろしてしまう。「早くやっちまえばいいな。」 三人はつぶやきながら小屋を出た。そのあとの豚の苦しさ、(見たい、見たくない、早いといい、葱が凍る、馬鈴薯三斗、食い・・・ 宮沢賢治 「フランドン農学校の豚」
出典:青空文庫