・・・は、平戸から九州の本土へ渡る船の中で、フランシス・ザヴィエルと邂逅した。その時、ザヴィエルは、「シメオン伊留満一人を御伴に召され」ていたが、そのシメオンの口から、当時の容子が信徒の間へ伝えられ、それがまた次第に諸方へひろまって、ついには何十・・・ 芥川竜之介 「さまよえる猶太人」
・・・彼らはまたその面積においてはデンマーク本土に二倍するアイスランドをもちます。しかしその名を聞いてその国の富饒の土地でないことはすぐにわかります。ほかにわずかに鳥毛を産するファロー島があります。またやや富饒なる西インド中のサンクロア、サントー・・・ 内村鑑三 「デンマルク国の話」
・・・天孫民族が渡って来た頃の本土のさま、また朝鮮の一民族が移って来た頃の武蔵野のさまを想像する参考になりそうである。 札幌の普通の住家は室内は綺麗でも外観が身萎らしい。土ほこりを浴びた板壁の板がひどく狂って反りかえっているのが多い。 有・・・ 寺田寅彦 「札幌まで」
・・・日本の本土はだいたいにおいて温帯に位していて、そうして細長い島国の両側に大海とその海流を控え、陸上には脊梁山脈がそびえている。そうして欧米には無い特別のモンスーンの影響を受けている。これだけの条件をそのままに全部具備した国土は日本のほかには・・・ 寺田寅彦 「涼味数題」
・・・オペラは欧洲の本土に在っては風雪最凛冽なる冬季にのみ興行せられるのが例である。それ故わたくしの西洋音楽を聴いて直に想い起すものは、深夜の燈火に照された雪中街衢の光景であった。 然るに当夜観客の邦人中には市中の旅館に宿泊して居る人ででもあ・・・ 永井荷風 「帝国劇場のオペラ」
・・・自分たちだけは、様々の軍事上の名目を発明して、数の少い軍用機で、逸早く前線から本土へ逃げて翔びかえってしまった前線の指揮官があることを、これ迄何と度々耳にしていることだろう。軍人社会での階級のきびしさは、公的目的のための制度であったはずであ・・・ 宮本百合子 「逆立ちの公・私」
・・・日本では本土決戦というようなことがいわれはじめた。網走へ行って住もうと思って、七月私は福島県の弟の家族の疎開先まで行った。その時はもう津軽海峡の連絡船が動かなかった。八月六日広島に、九日長崎に原子爆弾がおちた。広島に応召中だった・・・ 宮本百合子 「年譜」
・・・第二次大戦で、最も僅かの人命を犠牲としたのはアメリカであったし、本土に襲撃を蒙らなかった唯一の国もアメリカであった。そのように比較的少い損傷でヨーロッパと東洋のファシズムとたたかい、それをうち倒したアメリカが、こんにちもっている諸問題の複雑・・・ 宮本百合子 「便乗の図絵」
出典:青空文庫